2022.09.12

“神る”ディープインパクト

この週末の競馬シーンは、ディープインパクト好きにとっては、大変な“お祭り”状態になりました。アイルランドでデビューしたラストクロップの“一番星”に輝いたオーギュストロダンがG2チャンピオンズジュベナイルSに挑戦し、一発回答で重賞制覇を達成してくれました。育ての親のエイダン・オブライエン調教師は「素晴らしい馬格をしていて気性も素直、調教の動きはいつも目を見張る。楽しみな馬に成長したよ」と目を細めます。初勝利を挙げた前走時点で、来年のダービーの前売りオッズ1番人気に推されていたのですが、今回さらに箔を増し、飛び抜けたダービー候補一番手に大抜擢されています。

その翌日には、日本の中京でオープンファイアが競馬場デビュー。スタートが良くなく、超スローペースを後方から追いかける形になり、間に合うのか届くのかハラハラさせられましたが、ゴール寸前で“ビュン”と一閃、まるで“宙を飛ぶ”ように伸びてクビ交わし去りました。この週末の勝利二連発は、想像も及ばないようなドラマを見せてもらった気分です。オープンファイアという馬名は、戦いや競争の開始を意味する“火蓋を切る”に由来しているそうですが、ほんの一握りの少数で無謀にも挑もうとする英ダービーの頂き、日本ダービーの遥かなる地平が、ウッスラですが、見えたような気がします。「神って来た!」そんな感慨が溢れ出しました。

何度かお話しましたが、2019年7月に亡くなったディープインパクトが遺した20年生まれの遺児(ラストクロップ)は日本国内に6頭、ヨーロッパに6頭、たった12頭だけが競走馬として登録されています。ヨーロッパに入厩した6頭は、既に英2000ギニーのサクソンウォリアー、英オークスを史上最大着差で圧勝したスノーフォールなどのクラシックホースを輩出しているクールモア=エイダン・オブライエン厩舎の黄金タッグには、オーギュストロダン以外にも、サクソンウォリアー全弟のドラムロール、年度代表馬に輝いた超名牝マインディングの娘であるヴィクトリアムがデビューを待っています。エイダン師の次男で調教師のスタートを切ったばかりのドナカ・オブライエン厩舎にも入厩したボールドアズラヴは、二アルコスファミリーのオーナーブリーダー馬で凱旋門賞馬バゴを伯父に持ち、いかにも日本適性を秘めていそうでジャパンCへ来てくれないか、と気の早い期待をしています。他の2頭はアガ・カーン殿下とゴドルフィンが所有しているようですが、いずれも兄姉がG1を勝ちまくっている超良血であるのは無論です。国内、海外を問わず登録済みの12頭は、どの馬を取ってもピッカピカのエリートホースばかり!世界一流のホースマンからディープインパクトに寄せられた尊敬の念の深さ、信頼の揺るぎない固さ、かけられた期待や夢の大きさが、実感として伝わってきます。

オープンファイアの勝利は、種牡馬ディープインパクトにとってはJRA通算2649勝目となります。到達不能の絶対領域と言われてきたサンデーサイレンスの最多勝記録が2749勝ですから、残るは100勝で並ぶことになります。この後の中山でファルコニアがG3京成杯オータムHをクビ差し切り2650勝目を挙げて、遂に金字塔樹立へのカウントダウンが始まります。残るは99勝です。年内到達は厳しいでしょうが、来年の春くらいまでには、ディープインパクトが父サンデーサイレンスを超える瞬間を目撃できそうです。我々は幸運にも、競馬の歴史に残る貴重な一頁一頁をリアルタイムで見ているのかもしれません。わずか12頭で、どんな壮大華麗なドラマを見せてくれるのかも含めて、“ディープインパクト劇場”の観客でいられることが、幸せに感じられてなりません。