2022.09.09

女王に捧げる弔鐘

エリザベス女王が亡くなりました。長きにわたって国民から広く敬愛され、尊敬された生涯は現代の奇跡と仰ぐしかありません。女王の数々の事績の中でも、とくに競馬には言葉には現せない貢献をいただきました。ロイヤルアスコットという唯一無二で世界最高最上の“ブランド価値”を開催オーナーとして創造し守り抜いた功績は永遠不滅です。また馬主として生産者として数々の名馬を競馬場に送り込んだオーナーブリーダーとしての貢献も忘れられません。たとえばハイクレアのエピソードは有名です。日本で無双を誇り、ヨーロッパ、オーストラリアを中心に勢力を世界に拡大しているディープインパクトは彼女の曾孫で、もう女王ファミリーのほとんど身内と言って良い近しさです。ちよっと遠縁になりますが、文句なしの現役最強馬バーイードは、5代母が二冠馬ナシュワンを生んだハイトオブファッションですから、その母ハイクレアが6代目に登場し、これまた女王ファミリー直系になります。

競馬の魅力を語り伝えるに、こうしたエピソードに勝るものはありません。女王がそのハイクレアにどれほど深い愛着を感じていたかは、わざわざ所有牝馬を日本に送り込んでディープインパクトを種付けしていることからも想像できます。日本生まれのポートフォリオ、その弟のエデュケーター姉弟がその馬で、ともに早々と連勝を飾るなど能力の一端を発揮して、女王を喜ばせてくれたのは何よりでした。

イギリスは女王に哀悼の意を表して競馬開催が中止されましたが、お隣のアイルランドは季節の移り変わりが一足早いこともあって、今週末はシーズンの総決算となる“チャンピオンズデー”が行われます。舞台もアイルランドを代表する二大競馬場、土曜のレパーズタウンに続き日曜はカラと地域のファンや関係者に丁寧に配慮したスケジュールになっています。番組内容はスプリントから長距離まで、また世代や性別限定戦など、各カテゴリー毎にチャンピオンを争う王者決定戦という趣向です。競馬発祥の地イギリスに先駆けて発足した、複数のG1レースを網羅したカーニバル方式によるチャンピオンシップは、各方面から注目されファンからの人気も年々高まっており、競馬ビジネスモデルとして定着しつつあります。

明日のレパーズタウンで行われるG2チャンピオンズジュベナイルSに、世界中にたった12頭の登録しかないディープインパクトのラストクロップから希少な1頭が出走します。英2000ギニーのサクソンウォリアー、英オークス圧勝のスノーフォールと既に“ディープ使い”では定評のあるエイダン・オブライエン厩舎が送り込むオーギュストロダンがその馬です。ガリレオ、ジョージワシントン、チャーチルなど偉人由来、またオーストラリア、ジャパンといった国名由来に大物が潜んでいると言われるクールモア軍団にあって、日本でもっとも人気の高いアーティストである「ロダン」のフルネームをいただいた馬名には、期待の高さしか感じられません。偶然にも女王に贈る弔鐘を捧げる役割を果たすことになりました。女王ファミリーの1頭として誇り高い走りを見せてくれるでしょう。(現時点で日曜にカラ競馬場で開催されるG1ナショナルSにも登録を残しており、どちらのゲートに向かうか確定していませんが、どちらにせよ確証を期してギリギリまで最終決断を保留しているのでしょう。エイダン一流の“果報は寝て待て”戦略ですね)日本でも日曜の中京で先述の12頭中の1頭であるオープンファイアという馬が新馬戦に登場します。どちらも女王陛下に良い報告ができるといいですね。