2022.08.23

ノーネイネヴァー旋風

ヨーロッパの2歳戦線をノーネイネヴァーの血が吹き荒れています。今月上旬にG1シリーズ開幕戦であるフェニックスSをリトルビッグベアが圧勝、126+ポンドとこの時期の2歳馬としては非常に高い評価を獲得して、来春のクラシック第1弾の英2000ギニーの抜きん出た1番人気に抜擢されました。ノーネイネヴァー旋風はこれだけでは収まらず、この週末の土曜にカラ競馬場で2つのG2レースが行われ、まず牡馬主体のフューチュリティSで、幸先良くイソップズフェイブルズが勝利の凱歌を上げます。この「イソップ物語」という名前の馬は、母父が異父弟に英ダービー馬のニューアプローチがいる良血で日本で走り高松宮記念を勝っているシンコウフォレストです。ノーネイネヴァーのハイレベルな早熟性と同時に日本適性もあわせて証明した形です。さらに牝馬のデビュータントSでは、ここまで無敗のメディテートが危なげなく重賞3勝を含む4連勝して、英1000ギニーの1番人気に躍り出ています。こうなると勢いは止まらず、日曜はドーヴィルに遠征したブラックベアードがG1モルニ賞を競り勝ちます。ここまで名をあげた馬すべてがエイダン・オブライエン厩舎の管理馬です。この先は適性と相手関係を睨みながら使い分けられるでしょうから、ブラックベアードは仏2000ギニーが有力候補ですね。ヨーロッパ主要国でG1格付けされている英愛仏独ギニー路線に関しては、ノーネイネヴァーの独壇場になるかもしれません。

ノーネイネヴァーはヨーロッパの芝コースを活躍の舞台としながら、レッキとしたアメリカ生まれのアメリカ調教馬であることを、他にあまり例を見ない個性としています。彼を一から育て上げたウェスリー・ワード師は、北米拠点の調教師としてはロイヤルアスコットで最初の勝利を飾り、ここまで通算12勝と飛び抜けた成績を残しています。広いアメリカに、こういうユニークな調教師と厩舎が存在するのは競馬大国アメリカの懐の深さを物語るものでしょう。日本でも管理馬の8割くらいを外国産馬(持込を含む)でラインナップし、海外遠征にも熱心な森秀行厩舎のような異能派がいますが、こうした存在が競馬の面白さ楽しさを増しているのは確かです。

ノーネイネヴァーは早熟の代名詞として知れ渡るストームキャット系ヘネシーを祖とする血脈に属し、祖父ヨハネスブルグは2歳時7戦7勝で、愛フェニックスS、仏モルニ賞、英ミドルパークS、ダートの米BCジュベナイルと4カ国のG1を制圧してヨーロッパのカルティエ賞、アメリカのエクリプス賞と両大陸の2歳チャンピオンに輝いた史上唯一の馬となりました。この多国籍性という強みは産駒にも受け継がれ、スキャットダディは南米シャトルで本領を発揮しました。シャトル先のチリは2歳・3歳競馬が番組体系の中核を成し、早い時期に高い完成度を獲得することが勝負の別れ目となっています。この潮流は、多かれ少なかれ世界中に広まっていくのですが、スキャットダディの早熟性という武器がこの上ない強みとして生きることになります。
チリで火がついたスキャットダディ旋風は、本国アメリカで無敗の三冠馬ジャスティファイを生み、ヨーロッパでもロイヤルアスコットを中心に2歳競馬の華と持てはやされます。

旋風は日本にも吹き寄せ、ミスターメロディが高松宮記念で狼煙をあげます。さらにノーネイネヴァーの輸入産駒でスキャットダディの孫筋にあたるユニコーンライオンがG3鳴尾記念を鮮やかに逃げ切って重賞初勝利を飾ったと思ったら、次走のG1宝塚記念でも強敵相手に怯むことなく粘りに粘って銀メダルを持ち帰りました。レース運びに注文がつくタイプですが、前出のシンコウフォレストのケースからも、日本適性という点では合格点をあげられます。ヨーロッパはもちろん、日本でも目の離せない存在になりそうです。