2022.08.16
真夏のドリーム
お盆休み、いかがお過ごしでしたでしょうか。日本をはじめ世界各国でも熱い戦いが繰り広げられ、競馬好きには大満足の1週間でしたね。まずアメリカでは、世界初の総賞金100万ドル(ミリオン)レースとして創設され、高額賞金レースの先駆けとなった「アーリントンミリオン」が復活しました。創設年と第3回に飛び石連覇を達成した人気者ジョンヘンリーの活躍もあって、たちまちブランド価値を高めて数多くの一流芝ホースが参戦する人気レースとして持てはやされました。生涯83戦39勝、芝もダートも選ばず元祖二刀流でタフに走り抜く姿が、コツコツと地道に働き続ける庶民の暮らしと重なって“走る労働者”のニックネームで親しまれたジョンヘンリーが、一攫千金の機会を逃さず“ミリオンダラー”(百万長者)に上り詰めるアメリカンドリームを実現してファンを大喜びさせました。もともとはアーリントン競馬場で開催されていたのですが、経営不振でアメリカンフットボールチームへの売却が決まり、賞金も減額されたことから“ミリオン”の言葉を外し、ミスターディーSとして実施されました。しかし名レースの消滅を惜しんだ株主のチャーチルダウンズ競馬場が、このレースを引き継ぎ、賞金もミリオンに再び増額して「アーリントンミリオン」の復活に漕ぎ着けました。本来なら世界一の美観を誇るアーリントンのスタンドに陣取り、名物ホットドッグにかぶりつきながらファンファーレを待ちたいのですが、そこまで望むには贅沢すぎます。名レースを復活させたチャーチルダウンズ競馬場の心配りと努力に感謝しつつ、ケンタッキーダービーと並ぶ二本柱として発展してくれればと思います。
フランスでは日本でも馬券発売されたドーヴィル競馬場でおこなわれた仏マイル頂上戦のG1・ジャックルマロワ賞にバスラットレオンが出走しました。春にドバイのG2・ゴドルフィンマイルを逃げ切り、前走の英マイル戦線の最高峰サセックスSでも無敗の世界最強馬バーイードと一緒に走り4着に健闘した馬です。日本と海外では別馬のように走りが違います。24年前にタイキシャトルが、前週のG1・モーリスドギース賞のシーキングザパールとほぼ同時に、日本調教馬として史上初の欧州G1制覇を成し遂げ、海外遠征が一般化するキッカケとなったレースです。19年前には社台ファームのテレグノシスとローエングリンが帯同して渡仏してG1戦線に連戦で挑んでいます。もう一昔、二昔前の話です。24年前のタイキシャトルの輝かし過ぎる栄光に比べれば、ちょっと地味で半ば忘れられかけていますが、テレグノシスのジャックルマロワ賞3着の銅メダル、ローエングリンはムーランドロンシャン賞2着の銀メダルは大威張りできる成績でした。それ以来のチャレンジになるバスラットレオンでしたが、結果は逃げて見せ場はつくったものの、ラストの踏ん張りが利かず7着に終わっています。ヨーロッパの一流マイラーは傑出したスピードに恵まれ、ゴーサインが出ると鋭い瞬発力を弾けさせ、ゴール前は踏ん張り抜く底力を発揮します。タイキシャトルがそういう馬でした。そうでないと勝てません。バスラットも坂井瑠星騎手も得難い経験を重ねました。いつか花開く日も来るでしょう。
イギリスでは、明日からヨーク競馬場“伝統のイボア開催”が始まります。ヨークは1周3200m、直線1000mと広大なスケールを誇り、イギリス随一の公平なコースとして評価の高い競馬場です。コース設計はイギリスには珍しい平坦馬場で、日本馬向きという説もあります。事実、05年のゼンノロブロイはG1インターナショナルSで地元一流馬と長い直線を叩き合ってクビ差2着に奮闘しました。インターナショナルSは世界最高のG1戦に選ばれたこともある格の高いレースで相手も強いのが特徴ですが、日本馬の適性という面では選択肢に入れるべきレースかもしれません。さて今年のイボア開催初日は、恒例によってインターナショナルSが組まれています。9戦9勝と不敗のバーイードが2000mに距離を延ばして二階級制覇に挑みます。マイル戦で連戦連勝したフランケルはインターナショナルS、英チャンピオンSを連勝して史上最強クラスのサラブレッドに君臨しました。バーイードがフランケルにどこまで近づけるか、熱い焦点です。
日本では小倉記念のマリアエレーナの強さが際立っていました。父クロフネ、母系は母テンダリーヴォイス・その父ディープインパクト、祖母ミスアンコール・その父キングカメハメハ、曽祖母ブロードアピールまで、すべてが金子真人オーナーの勝負服で走りました。母の3歳下の全弟ワグリネリアンも金子ホースですから、オーナーブリーダーが絶大な勢力を誇っている海外でも、これだけの純正ブランドはそうありません。世界に誇れる日本競馬の至宝と言えるでしょう。夢のある血統が競馬場を駆けるのを見るのも、また楽しからずや…ですね。