2022.07.21
ガリレオの時代【後】
世界的な異常気象でヨーロッパも大変なことになっています。イギリスでは40度を越す熱波で開催を中止する競馬場が続出し、フランスではボルドーの山火事で近隣のトレセンから数百頭のサラブレッドが避難するなど緊急事態に見舞われました。このフランスをはじめイタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガルなど主要なワインどころが深刻な影響を受けているようです。2022年産のワインはどうなってしまうのでしょうか?その行方が気掛かりなのですが、昨年亡くなったガリレオに話題を戻すと、2008年は彼にとって“黄金の年”でした。サドラーズウェルズ、デインヒルといった歴史的大種牡馬の厚い壁を打ち破ってリーディングサイアーに初めて輝いたのも、ニューアプローチという孝行息子の出現で父子2代のダービー制覇を成し遂げたのもこの年です(ニューアプローチは10年後にダービー馬マサーを輩出し3代制覇の大輪を咲かせます)。
更にこの年は、ガリレオの名声を不滅のものにするフランケルが2月に、ナサニエルが4月に誕生したことで、まさに生涯忘れられないヴィンテージイヤーとなります。この2頭が競走年齢である2歳を迎えた8月のニューマーケット競馬場、ともにデビュー戦となるメイドン(未勝利戦)1600mでいきなり両雄は激突、フランケルが半馬身だけ先にゴールします。圧勝の連続で14戦14勝と不敗を誇った“怪物”にとっては、生涯最少着差として記憶されます。次走から13馬身、10馬身とワンサイドの競馬を続けたフランケルの強さより、遅咲きのステイヤーに生まれつきながら、素質と本能だけで食い下がったナサニエルのポテンシャルの奥深さを思い知らされる一戦でした。
ご承知のようにフランケルは、ブランド価値を守るために種付け数を制限しつつも、世界中から集まる良血牝馬を花嫁に迎えて次々とG1馬を生み出し、リーディングサイアーの王座も父ガリレオから奪い取っています。既にガリレオの孫世代からも種牡馬が現れており、この先もヨーロッパの競馬シーンを牽引していくヒーローであり続けるのは間違いないでしょう。そのうえ、スピード馬場を舞台とする日本競馬への適性も証明済みとあって、更に価値を高騰させていくことになりそうです。対するナサニエルは、フランケルほどの安定感はありませんが、長打一発!大物輩出という面では、震えがくるような魅力を秘めています。エネイブルの凱旋門賞連覇、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを三度制するなど大レースという大レースを根こそぎ持っていく底力の確かさは驚きしかありません。今年のダービーを無敗のまま圧勝したデザートクラウンの未来はどこまでも広がっているように思えます。血統的にはCBC賞と北九州記念を勝ったスプリンターのレッドアンシェルの叔父にあたるのですが、ナサニエルに日本適性があるのかどうか?ちょっと自信がありません。
先日のG1・パリ大賞を勝ったオネストはフランケル産駒でした。エネイブルのサドラーズウェルズ3×2と潔いほどチャレンジングなクロスには驚かされましたが、オネストの配合もちょっと立ち止まって考え込むくらい冒険精神に溢れています。母の父にガリレオの半弟であるシーザスターズが配合されています。つまりガリレオ≒シーザスターズ2×2の超近親交配になります。凱旋門賞馬アーバンシー3×3ということでもありますが、凱旋門賞を頂点にビッグレース制覇を狙って挑んだ血統実験ですね。日本ではこうした冒険には慎重な気風が根強いのですが、向こうのホースマンは割と平気にこだわりなくチャレンジする印象があります。オネストの一定の成功で、これからはこうした配合実験が増えてくるのでしょうね。サドラーズウェルズに始まり、デインヒルの追い風を味方にガリレオの時代が完成し、フランケルやナサニエルをリーダーとするガリレオ後継の時代が隆盛に向い、さらにさまざまなバリエーションが地球規模で発展していくのでしょう。このダイナミックな進化のありさまを同時代に経験できるのも、サラブレッドの世界ならでは。ありがたく幸せに思えます。