2022.07.19

ガリレオの時代【前】

世界の一番先頭で21世紀の競馬を引っ張り続けたガリレオが亡くなって1年が経ちます。時の流れは早いものですが、その圧倒的な影響力は衰えるどころか、ますます勢いを増しています。ガリレオの故国アイルランドから香港に移籍したロシアンエンペラーが年明けから春先にかけて2つのG1を固め打ちして先陣を切ると、英オークスのチューズデー、ロイヤルアスコットではキプリオスがゴールドCとガリレオ“本陣”オブライエン勢が気を吐き、先週末は愛オークスでジョン・ハリントン夫人に調教されたマジカルラグーンが日本にいる半兄ノヴェリストに届けとばかり盛大な祝砲を打ち上げています。種牡馬ガリレオにとっては、歴代96頭目のG1馬であり、実に累計198勝目となります。オーストラリアなど南半球での無双を含めて85頭が168勝を上げたデインヒル、73頭で132勝の偉大な父サドラーズウェルズを、いつの間にか遥かに追い越して、突出した“G1帝王”として天頂に君臨しています。先のことは不透明なのですが、“空前絶後”の帝王ガリレオが前人未到の100頭&200勝のメモリアルレコードに到達するのは、競馬開催が持続される限り間違いないでしょうね。

持続的かつ安定的に競馬が開催されることが、ガリレオの最大の追い風となっているように感じられます。コロナ禍で厳しい競走生活を強いられたのは、どの馬も同じでしょうが、とくにガリレオのような実戦を重ねながら成長を遂げていくタイプのサラブレッドは、ひときわ苦しめられたように思われます。ヨーロッパのG1シーズンは5月初旬から10月中旬の半年間とされ、一流馬はこのレーシングカレンダーの枠内で走るのが定番とされています。最近は3月下旬のドバイミーティングや2月下旬のサウジカップデー、11月初旬のブリーダーズカップなどがスポット的に組み入れられるようになりましたが、ヨーロッパ視点で見ればあくまでスポット的な存在でしょうね。日本の競馬は年中無休で開催され、一流馬は概ね寒い冬と暑い夏は休養にあて、春秋2走ずつといったローテーションが一般的になっています。

逆にヨーロッパの一流馬は、短いシーズンの間にもっと頻繁に精力的に競馬場に登場します。ガリレオ産駒で見ると、非常に大事に使われた印象があるフランケルですら、2歳時4戦、3歳時5戦、4歳時5戦とコンスタントに使い込まれています。ガリレオの最初の凱旋門賞馬ファウンドは、後述ハイランドリールやオーダーオブセントジョージとともにガリレオ1-2-3決着の“ファンタジー”を実現しましたが、それ以上に21戦6勝、G1は3勝も偉いですが、2着が10度もあるシッカリ娘ぶりに驚かされます。ガリレオ産駒における賞金王ハイランドリールは7カ国をタフに渡り歩いて27戦10勝と稼ぎまくっています。中でも4歳時は3月のドバイシーマクラシックから4月の香港クイーンエリザベス2世Cに始まって、10月凱旋門賞でファウンドの2着すると、11月はBCターフを完勝し、12月香港ヴァーズは日本馬サトノクラウンの2着と月1走のペースで休みなく使われ安定的に賞金をゲットしています。

競馬史を飾る名馬ばかりですが、日本の一流馬と比べても、さらにタイトなローテーションで走り続けているのは立派です。健康で・素直で・賢い、サラブレッドの理想の姿がここにあります。競馬をエンタテインメント興業として考えても、こういう姿がより健全なのでしょうね。種牡馬ガリレオの時代は、あと数年で収束に向かうのでしょうが、ブルードメアサイアー(母の父)、サイアーオブサイアーズ(父の父)としてのガリレオの時代はこれからです。競馬の未来を考えると、ガリレオ一周忌はほんの一里塚に過ぎないでしょう。考えなければならない気がします。