2022.07.14

大いなる登龍門

きょう7月14日は、フランスの革命記念日にあたり、近現代フランスの建国記念日とされています。昭和の頃の日本では「巴里(パリ)祭」と称して、古き良き時代を偲ぶオシャレでエレガントな風物詩として親しまれていました。フランス本国でも、この日はロンシャン競馬場を舞台とするビッグイベント「パリ大賞」が開催され、競馬好きをワクワクさせてくれます。1863年の創設と歴史は古く、フランスとイギリスそれぞれのダービー馬を競わせて、フランス産馬の優秀さを世界に理解させることを目的として発足しています。競馬発祥の地イギリスに“追いつけ追い越せ”とフランス産馬の質を向上させることは、競馬興隆に熱心だったナポレオン以来の悲願でした。その伝統を受け継いで、フランス唯一の国際競走として誕生し、第2次大戦後に劇的な急成長と発展を遂げた凱旋門賞に追い抜かれるまでは、世界の頂上に君臨する最高賞金レースとして威勢を誇っていました。

ナポレオン以来の夢は、思いがけず早々と実現されます。創設後わずか3年目、グラディアトゥールという不世出の名馬が彗星のように現れ、英2000ギニー、英ダービーに二冠を制覇します。中10日でパリ大賞に出走するため凱旋帰国した彼を迎える大観衆が昼夜を徹してロンシャン競馬場を埋め尽くしたと伝えられています。この国民的熱狂は、彼がパリ大賞を8馬身差で圧勝したことで頂点に達します。その後も期待を裏切ることなく、秋にはセントレジャーを制して晴れて三冠馬に輝き、翌年はアスコットゴールドカップを40馬身という想像もできない大差で圧勝するなど、国民的ヒーローであり続けました。現在も毎年9月中旬の「凱旋門賞トライアルデー」に、本番と同コース・同距離で施行されるG2ニエル賞・G2フォア賞・G1ヴェルメイユ賞などと一緒にラインナップされる「G3グラディアトゥール賞」に史上最高のヒーローの面影を偲ぶことができます。

前述のようにパリ大賞は凱旋門賞の急激な発展とともに、その地位を譲り渡し、“凱旋門賞への登龍門”という色彩を濃くしていきます。80年代に3000mから2000mへと距離短縮されて、ますますその傾向を強め、日本でお馴染みのバゴなどもこの時代にパリ大賞から本番制覇した一頭です。バゴの翌年の05年からは、仏ダービーを英ダービーと差別化を狙って2100mの中距離路線に改め、距離交換の形で2400mの現行距離に改められます。それ以降はパリ大賞馬にして凱旋門賞馬にのし上がったのは06年のレイルリンク程度で、13年のフリントシャーが2年連続2着を記録しています。昨年のハリケーンレーンは本番3着に甘んじましたが、さて今年はどうでしょうか?

“登龍門”的色彩を強めているパリ大賞ですが、今日夜半に行われる今回は英愛仏の三国ダービー戦線で好勝負を演じた愛ダービー2着のピッツバルディ、仏ダービー2着のエルボデゴン、同5着のオネストなどのクラシック経験組と、遅れてやって来て破竹の連勝街道を走っている上がり馬軍団、3戦3勝でロイヤルアスコットのG2クイーンズヴァーズを勝ったエルダルエルダロフ、名手スミヨンを背に3連勝中のラストロノーム、同じく3連勝中のシムカマイルなど、6頭立ての少頭数ながら精鋭が揃いました。一瞥(いちべつ)した印象からは、“残念ダービー”という色合いにも感じられますが、未知の魅力を爆発させる“大いなる登龍門”レースを期待したいものです。