2022.07.06

ディープインパクトのラスト12頭

先週末は嬉しいニュースが次々と飛び込んで来たというお話をしています。土曜に新種牡馬レッドファルクスがJRA一番星を上げて、楽しみの風を帆いっぱいにはらませて雄々しく船出しました。日曜はレッドスパーダの3歳馬テイエムスパーダが父譲りのセンスの良さを全開させて重賞初制覇を圧勝で飾りました。相棒の今村聖奈騎手の素晴らしいアシストを得て日本レコードのオマケ付きでした。さらに海外からは、ディープインパクトのラストクロップ12頭の先陣を切ってエイダン・オブライエン厩舎のオーギュストロダンが未勝利戦を楽勝したというビッグニュースが舞い込みました。ポテンシャルの高さをうかがわせる走りっぷりに、大手ブックメーカーは早くも来年のクラシック最有力候補の白羽の矢を立てました。驚くなかれ!ダービー1番人気に大抜擢されました。2番人気にエリザベス女王の愛馬デザートヒーロー、3番人が昨年のオークスで16馬身半の歴史的圧勝で父ディープインパクトにオークスの栄冠をプレゼントしたスノーフォールの半弟アルフレッドマニングスが続いています。順調に行けば、イギリス本国のみならず日本でも大変な盛り上がりになりそうです。

ご承知のように、3年前に亡くなったディープインパクトは12頭のラストクロップを残しています。海外で6頭、日本で6頭が登録され、オーギュストロダン以外の11頭がデビューの日を今や遅しと待ち兼ねています。どれも素晴らしい血統ですが、とくに海外の6頭はどの馬も目を疑うほど、信じられないほどの超豪華版揃いです。前出のオークス馬スノーフォール 、2000ギニー馬サクソンウォリアーで既に実績のある名門エイダン・オブライエン厩舎は3頭、一番槍オーギュストロダンに続く二番槍はドラムロールでしょうか。サクソンウォリアー全弟というピッカピカのブランドホースです。さらに凄いのがヴィクトリアム。この仔はG1を7勝して年度代表馬に輝いたマインディングが母で、日本風に言えばディープのG1・7勝を併せて“14冠ベビー”という絢爛さです。マインディングのG1勝利は1400m、1600m、2000m、2400mと幅広いカテゴリーに及び、最近のハヤリ言葉でいえば“三階級制覇”の偉業を成し遂げたことになります。この全能性(オールマイティ)が牡馬を差し置いて年度代表馬に選出された理由でしょう。“理想のサラブレッド”と言って良いのでしょうね。

世界の頂点に立つ名伯楽エイダン師の次男ドナカ・オブライエンが手がけるボールドアズラヴは、伯父に凱旋門賞馬にして日本で種牡馬として大成功しているバゴがいます。長年ニアルコスファミリーが丁寧に紡ぎ続けた珠玉の名作です。話は変わりますがオブライエン一家と言えば、宿命のライバルを自認するゴドルフィンも黙ってはいません。シャラミストはG1馬ヒバーイェブを母に、姉ウヘイダはBCフィリー&メアターフでオーギュストロダンの母ロードデンドロンを破っています。いかにもゴドルフィンらしいプロフィール満載、目下絶好調のチャーリー・アップルビー厩舎でウィリアム・ビュイックが手綱を執ります。ライアン・ムーア騎乗のクールモア軍団との“永遠のライバル対決”に火花を散らす日が待ち遠しいですね。

競馬界を代表するオーナーブリーダーであるアガ・カーン殿下もアズマニアという良血馬を送り込んで来ます。兄ジオータムサンはオーストラリアでローズヒル、ランドウィック、コーフィールドとシドニー地区3大競馬場のギニーを総ナメにするなど9戦8勝と無敵を誇っています。伯父アザムールはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS、プリンスオブウェールズS、愛チャンピオンSなどビッグレースを勝ちまくったアガ・カーン殿下の傑作馬です。ざっと海外で走るディープインパクトの忘れ形見をご紹介しましたが、もし仮に彼らがセレクトセールに出て来たら、いったい幾らでハンマープライスされるんでしょうか?気が遠くなりそうですが、それだけ世界は広く、サラブレッドや競馬それ自体の価値はまだ成長しており、その底は測り知れないということでしょうね。こうして見てくると「たった12頭・されど12頭」と感慨深いものがあります。この中に“ディープインパクトの最高傑作”が潜んでいることを願い続けましょうか。