2022.06.29

後半ラウンドの新風景

レーシングカレンダーの半分にそれぞれの結果が書き込まれ、折り返し点を迎えています。宝塚記念のゴールの向こうで梅雨明けが宣言され、新しい季節が明けました。また風景が変わったような気がします。さっそく北の馬産地・門別から、日本で一番早い2歳世代最初の重賞レース「栄冠賞」の便りが届けられました。まだデビューしたばかりで海のものとも山のものとも正体の知れない未知の若駒ばかりが走るとあって、一筋縄で収まらないのも当然か?4コーナーでまだドンジリ集団にいたコルドゥアンが大外一気に伸びて三連単389万円台超大穴。長い経験の賜物か?酸いも甘いも噛み分けて、大抵のことには動じない北の熟練ホースマンを驚かせました。勝ち馬コルドゥアンは、サンシャイン牧場が名門の誇りをかけて育て上げた祖父フィガロを祖として、道営デビューから地方の頂点・東京ダービー馬に上り詰めたアンパサンド、プレティオラスを送り出し、後者を父として誕生しています。“道営=馬産地魂”の塊りのような血統の奥底には、ゾクゾクさせられるような魅力が流れています。ダートホースの価値見直しの機運が高まる風潮に、さらなる追い風を吹かせると有難いのですが。

ヨーロッパでも単なる世代交代と言う以上に、景色が違ったものに見え始めています。クラシックレースはあらかた終わった昨今、各国からフレッシュなヒーロー・ヒロインが、凱旋門賞の有力馬リスト上位に続々と名乗りを上げています。ブックメーカー各社がこぞってイの一番にリストアップしているのは3戦3勝と無傷で英ダービーを圧勝したデザートクラウンです。名匠サー・マイケル・スタウト調教師がワークフォース以来12年ぶりに英ダービー&凱旋門賞の欧州最高峰二冠制覇を視野に捉えています。この二冠にキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(以下「キングジョージ」)を加えた三冠となると、長い歴史の中で71年のミルリーフ、95年のラムタラとたった2頭しかいません。スタウト師は“競馬の母国”イギリスでリーディングトレーナーに10回も輝き数々のビッグレースを制覇したレジェンドですが、前述ワークフォースはキングジョージ5着で達成を逸しましたが、“欧州三冠”は巨匠の競馬人生における重要なメルクマール(指標)のようです。どうやらデザートクラウンは、1ヶ月後のキングジョージをパリロンシャンへの偉大な一歩とするようです。パリロンシャンで無敗のまま凱旋門賞馬に君臨したのは、伝説の名馬リボーの16戦16勝と、神の馬ラムタラの4戦4勝、そして天才少女ザルカヴァの8戦8勝、たった3頭だけにリザーヴされています。想像するだけで気が遠くなりそうな偉業です。

この夢のような名馬への階段を昇り続けるデザートクラウンを追って、おおむね8〜9倍の2番手グループには、各国を代表する勢いのあるダービー馬が名を連ねています。愛ダービー馬ウェストオーヴァーは、その前走の英ダービー直線で前後左右ビッシリと四方を馬群に囲まれ、身動きの取れない致命的な苦境から遅まきながら脱出すると旋風(つむじかぜ)のような“神脚”で3着に突っ込んでいます。この反省もあってか、愛ダービーでは馬群を避けて2番手で自在に立ち回り、早め早めの仕掛けで大差7馬身ちぎる圧勝劇を演じています。こんな器用な競馬ができれば、デザートクラウンとの一騎打ちまで見えて来ます。

前出の不敗の凱旋門賞馬ザルカヴァの創造主であり、凱旋門賞に欠かせない名オーナーブリーダーであるアガ・カーン殿下が送り込む、仏ダービー馬ヴァデニは今週末のG1エクリプスSに追加登録料を支払ってエントリーしました。5万ポンド≒800万円の高額投資してまでイギリスに遠征するのは、有力馬を揃えた敵情視察の狙いも潜んでいるのでしょうか?デザートクラウンのスタウト師の“秘密兵器”ベイブリッジも顔を見せており、まずは飛車退治、次に凱旋門賞で王手を詰める作戦でしょうか?無敗の凱旋門賞馬の背中を知る唯一の現役騎手クリストフ・スミヨンが鞍上というのがなんとも不気味です。日本ダービー馬ドウデュースは宝塚記念を圧勝したタイトルホルダーとともに伏兵格の15倍のオッズを貰っています。競馬はオッズが走るわけではないので、これから勢力図がどう移り変わっていくのか、目を凝らして注視し続けていきたいと思います。