2022.06.15
フランケル再臨
ロイヤルアスコット開催初日の第1レースが指定席となっているG1・クイーンアンSをご覧になった方も多いと思います。ランキング世界1位に君臨する王者バーイードは、道中を淡々と好位で折り合って進み、他馬が一斉にスパートした勝負所に差し掛かっても、手綱はまだ持ったまま。全くの馬なりで先を行くリアルワールドを交わし、軽く追われて後続を突き放すと、不敗の8連勝のゴールに飛び込みました。底知れぬ強さです。現地メディアは興奮気味にバーイードの無双の強さを伝え、「フランケルの再来」と、14戦14勝の史上最強馬と同列に評価する人も現れるほどです。同じクイーンアンSを11馬身の大差ぶっちぎりで圧勝したフランケルと、着差だけで言えば2馬身足らずのバーイードでは“次元が違う”という異見反論もあるでしょうが、良くも悪くも“気の強い”フランケルには抑えが利きづらい面も見られました。バーイードとはタイプが異なります。一概に“フランケルの再来”と決めつけられませんが、バーイードが常識を超える規格外のスケールの持ち主なのはフランケルと同じでしょう。
さて、今夜半にゲートインがはじまるG1・プリンスオブウェールズSは、残念ながら馬券発売には不向きな 5頭立て。海外のG1レースでは起こりがちなことで頭の痛いところですが、ゲートに向かう顔ぶれは多士済々で個性的な面々が集う“少数精鋭”の興味深い一戦となりました。現地の大手ブックメーカーは、日の丸代表のシャフリヤールを今のところ2番人気に推しています。この日本ダービー馬にして前走も国際G1勝ちしたワールドクラスの強豪馬を差し置いて1番人気に大抜擢されているのは、ベイブリッジという上がり馬です。G3までしか経験のない馬ですが、連勝中で勝ちっぷりの良い大物ぶりにバーイードに似通った雰囲気を漂わせています。
シャフリヤールをサンドイッチして3番手で続くのがアイルランドのステートオブレスト。クラシックも無縁なまま過ぎた無名の馬でしたが、若き天才調教師ジョセフ・オブライエン調教師に導かれて、アメリカ、オーストラリア、フランスと世界各国を転戦して、新設のサラトガダービー、南半球の中距離大一番コックスプレート、フランスのG1開幕戦ガネー賞と3カ国でG1を3連勝して国際舞台の顔になりました。父系はオーストラリアから出てロイヤルアスコットで大活躍した縁の血です。祖父ショワジールはキングズスタンドSとゴールデンジュビリーSを中3日のローテーションで連勝したタフネスで、父スタースパングルドバナーもロイヤルアスコットとニューマーケットG1を連勝してオーストラリア国旗をセンターポールに高々と掲げています。初日におこなわれたG1・キングズスタンドSは、オーストラリア調教馬のネイチャーストリップが圧勝しました。電光石火の1000m戦で着差4馬身半は、中長距離なら“大差”と言える圧倒的なパフォーマンスです。ネイチャーストリップのここ一番での能力は飛び抜けて素晴らしく、スプリント王国オーストラリアのレベルの高さも本物。どうやら風は南十字星の方から吹いているようです。
一昨年のプリンスオブウェールズ王者であり、今春のドバイターフでも不屈の勝負根性で同着優勝に持ち込んだロードノースの4番人気は低評価過ぎる気もしますが、それだけ豪華版メンバーだということでしょう。ジャパンCで大きな不利を被りながら5着に健闘したグランドグローリーは、その後の高額の繁殖入りオファーを断って現役続行し、今回は追加登録料7万ポンド≒1100万円余を払って意欲の参戦です。本気度が伝わります。これくらい夢に一途なオーナーはじめ陣営のストイックな姿勢に胸が打たれる思いです。少頭数ながら清々しいメンバーが揃いました。今夜もテレビ中継が楽しみです。