2022.06.14

ロイヤルアスコット名物

世界中から様々な価値観を持つ色々な人々が参集するロイヤルアスコットには、名物と銘打たれるレースやイベントなどが数え切れないほど存在しています。ここ最近では、開幕前日にゴフス社のプロデュースで開催される「ロンドンセール」という競り市の人気が高まっているようです。確かスピルバーグがプリンスオブウェールズSに参戦した15年あたりに創設された“新しい伝統”なのですが、前夜のセールで購買した馬を翌日からのレースに落札者の勝負服で出走させることができるチャーミングな特典も人気を後押しして、世界中から集まるトップクラスのホースマンを魅了しています。ロンドンはドレスコードに則った礼装を一夜にして仕立ててくれるフォーマルファッションの聖地であり、レースまでに勝負服を間に合わせるのはお手のものです。洒落た趣向に唸らせられる思いです。

今年の目玉は、先日のエプソムダービーで2着したホーヤマルという勢い最高の上がり馬でした。といってもダービーでは単勝151倍のブービー人気だったのですが、それもそのはず未勝利を勝っただけの1勝馬だったから。しかし戦歴を辿ってみると、それなりのレースでそれなりの相手と差のない競馬をしてきています。たとえば前走はダービー前哨戦として評価の高いニューマーケットSで2着に健闘し、前々走G3・クレイヴンSでは無敗の快速馬ネイティヴトレイル(次走の2000ギニーは1番人気2着)に食い下がっています。ダービーは後方からインを衝いてスルスルと位置を上げ、直線も巧みに馬群を縫って先に抜け出した勝ち馬デザートクラウンを追って2着に頑張り通しました。操縦性が高く器用なレース運びができる馬で、賢く勝負根性に卓越している印象が強烈でした。素晴らしいサラブレッドです。

セールではミリオン(百万単位)越えの120万ポンドの声が掛かりました。円安のご時世ですから、日本円にして1億9000万円余りの高額でした。落札したのはオーストラリアからやってきたゲイ・ウォーターハウス&エイドリアン・バット厩舎とその関係者でした。ウォーターハウス師は世界最先端を走る女性調教師として高名で、豪ランドウィック競馬場を拠点にリーディングトレーナー争いの常連として目覚ましい活躍を続けています。今後はオーストラリアかヨーロッパ、いずれを主戦場にするのか分かりませんが、まずはロイヤルアスコットの5日目、金曜日のG2・キングエドワード7世Sを予定しているようです。“アスコットダービー”の異名で親しまれる出世レースで2勝目を目指します。

さて、いよいよ今夜、ロイヤルアスコットが華やかな幕を開けます。その初日の最終レース、オキタソウシというガリレオ産駒が出走します。新撰組に登場する天才剣士「沖田総司」ですね。日本人オーナーの松本俊廣さんがクールモアとのパートナーシップで所有する馬。巨匠エイダン・オブライエン調教師の長男ジョセフ・オブライエンの下で才能を磨いています。他にもコンドウイサミ、ヒジカタトシゾウといった馬がヨーロッパの競馬場に“出動”しています。オキタソウシは久々を2着にまとめて、今回こその意気込みが伝わります。ハンデ戦で斤量的に楽ではないでしょうが、レース選びなど戦略眼に長けた若き調教師ジョセフの手腕は信頼できます。日本人がらみの馬によるロイヤルアスコット初勝利を心待ちにしたいものです。