2022.06.06
ハイレベル世代の台頭
この週末4日間は国民の祝日とされ、イギリス国民をあげてエリザベス女王の即位70周年(プラチナ・ジュビリー)を祝賀するセレモニーが、バッキングガム宮殿前やエプソム競馬場などで壮麗かつ盛大に行われました。コロナ禍との長く厳しい戦いから、ようやく帰還した国民は歓びを爆発させて、女王がそこにいらっしゃる日常の風景に心休まる思いを満喫したようです。エプソムでは女王の勝負服を身にまとったレジェンド騎手たち40人が勢揃いして、女王への慶賀と感謝の気持ちを伝えています。先日亡くなったニジンスキーなど伝説の主戦騎手だったレスター・ピゴットさんは、パドック脇に銅像姿で参列していました。金曜はオークス、土曜はダービーと競馬の母国イギリス最高のレースが女王にお祝いを捧げました。
歴史に残る素晴らしいオークス&ダービーになったと思います。この2年以上にも及ぶコロナとの戦いは、人間はもちろんですがサラブレッドも疲弊させるものでした。トレーニングに明け暮れレースに出かける何事もない日常が奪われ、担当スタッフとのコミュニケーションも不規則になるなど、彼らの本来の力を発揮させる環境が奪われてきました。初夏の気持ちが良い陽光の下に人々が集い、以前と同じようにサラブレッドたちが疾駆する、この日を待っていたかのように彼らはゲートを飛び出していきました。
オークスは、人気を集めていたエミリーアップジョンとチューズデーが出遅れ場内をざわつかせます。しかしやるべきことをやってきた強い馬は強い、エミリーのランフランコ・デットーリ騎手もチューズデーのライアン・ムーア騎手も冷静でした。後方を落ち着いて追走すると直線でライアンが仕掛け一瞬で先頭に躍り出ると、もの凄い末脚で追い込むデットーリと一騎打ち。態勢はエミリーに分があるように見えましたが、チューズデーがわずかに凌ぎきって栄光のゴールイン。エイダン・オブライエン調教師は英クラシック41勝目、なんと19世紀の記録を破る史上最多勝に輝きました。が、負けて強し!エミリーアップジョンは凱旋門賞1番人気に抜擢されます。
翌日のダービーは、ここまで2戦2勝とキャリアは浅くても素質の高さを注目されたデザートクラウンが好位から堂々たる“横綱相撲”で抜け出して後続を突き放す完勝。名伯楽サー・マイケル・スタウト師は6勝目のダービー制覇でした。デザートクラウンは前日のエミリーアップジョンを追い抜いて凱旋門賞1番人気に躍進します。日曜はフランスに渡ってシャンティイ競馬場で仏ダービーが行われ、アガ・カーン殿下が送り込んだヴァデニが前夜のデザートクラウンを彷彿とさせるような“横綱相撲”で5馬身差の圧勝!殿下に8勝目、管理のジャン-クロード・ルジェ師に5勝目、鞍上クリストフ・スミヨン騎手に4勝目と“黄金トリオ”にふさわしい威風堂々のゴールでした。凱旋門賞はデザートに次ぐ2番人気に食い込みます。この世代は、コロナ禍を乗り越えた近年最強のサラブレッドたちかもしれません。
凱旋門賞を巡る風邪の便りは、人気だけなら今週末に旋風を巻き起こした若駒たちが1-2-3を占めることになりました。日本から参戦表明しているドウデュースは17倍で10番手くらいの評価です。ちなみにオークスを勝ったチューズデーはガリレオ産駒です。デザートクラウンはナサニエル、ヴァデニはチャーチルといずれもガリレオの孫の代ですね。エミリーアップジョンはシーザスターズの血ですからガリレオは伯父にあたります。相変わらず凱旋門賞におけるガリレオ系の強さは、その母アーバンシーの末裔も含めて群を抜いているようです。世界の競馬先進国で唯一ガリレオを成功させていない日本勢が、このガリレオ城の堅固な要塞とどう戦うか?ここも見どころですね。