2022.06.01
世代交代の風
今年のダービーは、今世紀の幕開けから競走馬として種牡馬として新時代を切り拓き・支え続けて来た名馬たちが、最後の桧舞台を晴れやかに飾り、そして後継者たちに次代を託す盟主交代の厳かなセレモニーの場としても感慨深い戦いとなりました。最後の世代となるラストクロップは種牡馬の健康状態などもあって、一般的に産駒数が少なく出るものですが、一世を風靡したキングカメハメハやクロフネのそれもダービーのゲートインは叶いませんでした。ディープインパクトやシンボリクリスエスは来年がラストダービーですが、ともに産駒数はひと桁で今回が事実上のフィナーレとなりそうです。ちょっと感傷めいた気分も織り交ぜて、様々な思いを載せて第89回東京優駿(日本ダービー)がスタートしました。
ご承知のように、“レジェンド”武豊騎手が手綱を操るドウデュースがクビという着差以上の強い内容の競馬、ダービーレコードで栄光のゴールを先頭で駆け抜けました。4コーナーでは、もう勝利を確信できるほど余裕がありました。手応えが良過ぎて早めに抜け出し、ちょっとソラを使ったためイクイノックスの追撃にヒヤリとさせられたものの、勝負の行方を紛らわすには至りません。ゴール前の攻防を見ても分かるように、前半のハイペースから直線に向くと、馬群の隊列の前後がガラリと入れ替わる追い込み組が優勢の流れになりました。そうした中で終始2番手で積極的にレースを主導しながら、ゴール前で粘りに粘ったアスクビクターモアも見事でした。
ドウデュースはハーツクライの血で、14年のワンアンドオンリーに続く2頭目のダービー馬です。母ダストアンドダイヤモンズはアメリカの重賞馬で前年はディープインパクトを交配されており、次に白羽の矢が立った結果の大殊勲でした。ノーザンファームお得意の活躍馬輩出のノウハウが花開いたとも言えそうです。ハーツクライは現1歳の35頭がラストクロップとなりますが、今年デビューの現2歳130頭を含めて、ディープ急死で“代打種付け”を務めた牝馬も多く、来月開催のセレクトセールでは世界中から熱視線を集めるのでしょうね。
2着のイクイノックスは新種牡馬キタサンブラックの名を改めて高めました。先行タイプの父と真逆の末脚勝負、秋の菊花賞で素質開花させた大器晩成型の父と比べて早期に完成度を磨き上げたクラシックタイプに出たことなど、“血統の摩訶不思議”を感じさせますが、皐月賞&ダービーともに2着と世代交代の風を吹き抜かせた功績は小さくありません。アスクビクターモアはセレクト高額馬で、G2・弥生賞ディープインパクト記念勝ちなど実績の割に人気の死角に入りましたが、それらの勲章が本物だったことを改めて証明しました。さすがにディープインパクトの血は伊達ではありません。妹たちは現2歳がダイワメジャー、現1歳がキズナに代わりましたが、決して諦めない勝負根性のしたたかさは確実に伝わっているはずで、更なる世代交代の風を運んでくれるでしょう。