2022.05.31
最後のディープインパクト
ダービーが終わると新馬戦の季節。日本の慣例に合わせたわけではないでしょうが、明日6月1日のアイルランドで3年前に亡くなったディープインパクトの最後の世代(ラストクロップ)が競馬場に姿を現します。世界の超名門エイダン・オブライエン厩舎から主戦騎手・ライアン・ムーアを鞍上に配して必勝の構えです。この世界最強級コンビは、先週もディープが生んだ怪物牝馬スノーフォールの全弟ニューファンドランドを勝ち上がらせたばかりで波に乗っています。2着続きでしたが、長距離路線に活路を見出したようで、秋にはラストクラシックのセントレジャーあたりでお目にかかれると嬉しいのですが。
話を戻しますと、明日デビューする2歳馬の馬名はオーギュストロダン。オブライエン厩舎の期待馬には、ガリレオ、ジョージワシントン、チャーチルなど歴史上の偉人、アンソニーヴァンダイク、カラヴァッジオ、メンデルスゾーンなど芸術家の名前をあてることが伝統的に多いのですが、オーギュストロダンも先輩に劣らず立派な馬名をもらいました。ロダンはフランスの彫刻家ですが、世界中の誰もが知るほど圧倒的な知名度を誇る「考える人」は、日本人が大好きな作品で国立西洋美術館をはじめ3ヵ所に収蔵されています。日本人ファンの琴線に響く素晴らしい名前をもらったものですね。
一度聞いたら忘れられないほど強烈なのは馬名だけではありません。血統の凄さも群を抜いています。母ロードデンドロンはガリレオ牝馬で、2歳時にフィリーズマイル、3歳時にオペラ賞、4歳時にロッキンジSと G1レースを毎年勝ち続け、クラシック戦線でも英1000ギニー、英オークスもともに2着と、恵まれた素質を安定して素直に発揮する馬でした。この資質は全妹マジカルにもそっくり伝わり、彼女は牡馬混合の愛チャンピオンSとタタソールズゴールドCをそれぞれ2回づつ、英チャンピオンSなどハイレベルG1を勝ちまくりました。姉妹とも怪物級の女傑エネイブルをライバルとして、これだけの成績を残したのですから、実力のほどは本物中の本物です。まぁ、祖母ハーフウェイトゥヘヴンが愛1000ギニーなどG1を3勝した名牝であったことを考えれば、姉妹の傑出ぶりも納得できるのですが。
ご存じのように、ディープインパクトのラストクロップは血統登録されたのは、日本国内ではわずか6頭だけ。ディープの体調が良かった早い時期に種付けを済ませていた海外牝馬の仔が、ほぼ同数くらいと推定されています。中でもエイダン・オブライエン厩舎に入厩した産駒は折り紙付きの精鋭揃い、数は少なくても溜息の出るような神々しいほどのラインナップです。オーギュストロダンも十分すぎるほど凄いのですが、後に控える英2000ギニー馬サクソンウォリアーの全弟ドラムロールとか、牡馬を蹴散らしヨーロッパ年度代表馬にまで上り詰めたマインディングの牝駒とか、まさに宝石のような輝きを放っています。さあ、いよいよ「ディープインパクト劇場・最終章」の幕開け。最後の最後までファンをドキドキさせてくれるディープインパクトという存在の大きさを、改めて痛感させられる思いです。