2022.05.26

“ディープ劇場”千秋楽【後】

東京の目黒競馬場跡には、銅像姿の1頭の馬が今も佇んでいます。後にも先にも1回だけこの地で開催された「東京優駿」(日本ダービー)を勝ったワカタカの父トウルヌソルの勇姿です。競馬の本国イギリスから当時10億円と伝えられる超巨額で輸入され宮内省の下総御料牧場に繋養された超良血馬は、実績も超絶級で次々と歴史を書き換える名馬を送り出し、戦中の43年にはクリフジが6頭目のダービー馬に名を連ねます。生涯11戦11勝、ダービーとオークスを勝った牝馬で、菊花賞は大差で圧勝して“変則三冠”を達成した史上唯一の馬です。

不世出の名馬クリフジから52年と気の遠くなるような歳月を経て平成の世となった95年にタヤスツヨシがダービー馬のレイで首筋を飾ります。皐月賞馬ジェニュイン、オークス馬ダンスパートナーと出して勢いに乗るサンデーサイレンスの初年度産駒にあたります。このアメリカ二冠馬にして最高峰BCクラシックをも制覇した名馬は、星の数ほどもの名馬を生み出し、11年後の2005年には6頭目のダービー馬ディープインパクトへと血統のバトンを繋ぎます。偉大なトウルヌソルに並んだ瞬間でした。

そしてディープインパクトは、ご存じのようにディープブリランテに始まり、一昨年の無敗の三冠馬コントレイルはクリフジやディープ自身と肩を並べる6頭目のダービー馬として君臨し、昨年のシャフリヤールが7頭目となるダービー馬の栄光に輝きます。ちなみに主要国ダービーで1頭の種牡馬が輩出した戴冠馬はダービーの起源である英エプソムダービーを舞台に、ガリレオが打ち立てた5頭というのが最高とされています。トウルヌソル、サンデーサイレンスのダービー6勝というのも凄い記録ですが、ディープインパクトの7勝となると、銀河星雲を超えていくような気が遠くなる大記録です。(ガリレオは昨年亡くなっていますが、遺された産駒は現3歳から今年生まれた当歳まで、後4世代で“ダービーチャンス”が遺されており、計算上は逆転可能ですが)

これが恐らく最後になる、ディープインパクト直仔が駆けるダービーデーが近づいてきました。しかし前出ガリレオも、昨年は英ダービー馬アダイヤー、愛ダービー馬ハリケーンレーンを出してリーディングサイアーを奪取した怪物フランケルが高いレベルで安定した実績を残しはじめました。同じくナサニエルは女帝エネイブルを輩出、血のリレーは順調に進んでいます。昨日も少し触れましたが、ディープインパクトからキズナに伝えられた血の絆が、史上初のダービー3代制覇というカタチに結実すると嬉しいですね。「ディープインパクト劇場」の幕は、まだ降りることはありません。