2022.05.25
“ディープ劇場”千秋楽【前】
2011年5月29日、第78回ダービーを迎えた東京競馬場は、つい先日の東日本大震災で尊い犠牲となられた方々を追悼するように、悲しみと鎮魂の雨が降りしきっていました。忌まわしい大震災の影響は競馬にも及び、関東地区の開催が中止され、皐月賞は中山から東京に移設して1週間遅れで施行されたほどです。そんな重苦しい空気が支配する中で、ディープインパクトの分身たちは、ひっそりとダービーデビューを果たしています。トーセンレーヴ、トーセンラー、コティリオン、リベルタスの4頭がゲートインし、それぞれ9着、11着、14着、競走中止という地味な結果でした。勝ったのはオルフェーヴルで、彼は秋のロンシャン競馬場で“世界の最高峰”凱旋門賞制覇にもう一完歩と、高く分厚い壁を穿(うが)ちました。ヴィクトワールピサがドバイワールドカップの頂上に上り詰めたのも、この年のことでした。ディープインパクト後継たちのクラシックデビューを含めて日本競馬の成長の歴史が、大震災の辛く厳しい試練や深い悲しみとともにあったことは忘れられません。
あの日から今日まで、十年余りにわたって常に主役の座を張り通し、大向こうから賞賛と感嘆の喝采を浴び続けてきたディープインパクトとその産駒たちですが、遂に千秋楽の日を迎えます。正式には現2歳がラストクロップとなるのですが、海外を除けば6頭しか登録されていない現状から、よほどの奇跡でも起きない限り、今年が事実上の“ダービー千秋楽”ということになりそうです。
先ほど「地味なデビュー」と書きましたが、翌年には2世代目のディープブリランテが早くも初優勝を飾り、3着トーセンホマレボシ、4着ワールドエースと掲示板の過半を占めます。凄かったのは16年でした。マカヒキ、サトノダイヤモンド、ディーマジェスティの順に入線し、なんと!ディープインパクト1-2-3の夢のような快挙を現実のものにします。しかもマジェスティは既に皐月賞を勝っており、ダイヤモンドは後に菊花賞と有馬記念を戴冠します。ディープ産駒3頭で三冠独占の金字塔が打ち立てられます。加えて、この年の凱旋門賞は同じエイダン・オブライエン厩舎のガリレオ産駒が1-2-3を決めて世界を騒つかせましたが、世界競馬史の頂点を極めたガリレオに対してディープは“一日の長”があったと言えるかもしれません。
その後の活躍はご存じの通り、ここまで11世代でダービー7勝、しかも前人未到の4連勝中と記録ずくめです。今年は抽選対象のコマンドラインを含めて 6頭が登録しています。ディープ自身のダービー5連勝の歴史的大事件への楽しみも尽きませんが、キズナ産駒のアスクワイルドモアが勝てば、史上前例のない親子孫と父系三代制覇が陽の目を見ることになります。ここもガリレオとの比較になりますが、このサドラーズウェルズ系の巨星は、自身に始まりニューアプローチからマサーに繋いでいます。こちらでも“両雄並び立つ”となってもらいたいものです。