2022.05.19

スキャットダディ大噴火【後】

若くして世を去ったスキャットダディが、死後もますます影響力を拡大しています。近年では遺された忘れ形見がグングン頭角を現して「スキャットダディ系」が確立。“世界的大馬主”クールモアを中心とするシンジケートが購買資金に糸目をつけず買いまくり、ノーネイネヴァーやスーネーションはアイルランドのクールモアスタッドに、ジャスティファイやメンデルスゾーンにカラヴァッジオなどダート適性も期待できる“エース級”は、大市場を控えるアメリカのアシュフォードにラインナップといった具合に、貴重なスキャットダディの血はクールモアグループが半独占状態といった格好の現状です。

そうした中で日本の競馬界は、スキャットの父ヨハネスブルクを輸入しているにもかかわらず、後継馬確保で後手を踏んだのは痛恨の極みとも言えそうです。しかし幸いなことに、高松宮記念を勝ったミスターメロディが供用2年目を迎えます。ノーネイネヴァー経由の孫世代ユニコーンライオンにも一縷(いちる)の望みはかけられそうです。今夏は勇敢でチャレンジングな欧州遠征を予定しているようですから、日本人ホースマンの手で育て上げられた世界的名血の出来栄えを、納得の行くまでジックリと品定めしてほしいものです。

前回も少しお話ししたように、スキャットダディの血の非凡さは、その父ヨハネスブルクに典型的ですが卓抜した早熟性にあります。ヨハネスブルクはアイルランドのクールモア専属厩舎で名伯楽エイダン・オブライエン師の薫陶を受け、2歳5月のデビュー戦を勝ち上がると、ロイヤルアスコット名物のG2・ノーフォークS楽勝で注目を浴び、そこからアイルランドのG1・フェニックスS、フランスのG1・モルニ賞、そしてイギリスのG1・ミドルパークS、仕上げにアメリカのG1・BCジュベナイルを鮮やかにブチ抜いて、4カ国G1完全制覇を成し遂げます。旅から旅へ、体力も精神力も並みでは務まりません。使われるたびに凄まじい速さで成長しているのでしょう。並外れた早熟性とは、多分そういうことなのですね。

現在の日本で早熟血統の代表格をピックアップすれば、ダイワメジャーの右に出る存在はありません。日本が生んだワールドクラスの大種牡馬ディープインパクトは、競走年齢に達した3世代が揃った産駒デビュー3年目にリーディングサイアーを戴冠し、今日まで誰にも王座を明け渡したことはありません。2歳馬だけに対象を絞った2歳リーディングは、いきなり1年目に王座を奪取。ライバルを寄せ付けない圧倒的な早熟性と成長性を見せつけてきました。その“神ディープ”がたった一度だけ不覚をとったことがあります。2015年の2歳リーディング争いで、暮れも押し詰まった阪神ジュベナイルフィリーズをメジャーエンブレムで制したダイワメジャーに凱歌が上がりました。ディープインパクトが王座争奪戦でライバルの後塵を拝したのは、生涯にこの一度だけ。恐るべしは早熟性です。古馬にならないと出走資格すらない3200mの春秋天皇賞を“至高の名誉”としてきたかつての日本競馬にとって、早熟性はもっとも縁遠い考え方だったかもしれません。そこも含めて、競馬やサラブレッドのあり方に思いを及ぼすことも必要かもしれません。