2022.05.17
至宝シラユキヒメ一族【後】
単に“毛色が変わった一族”という興味本位のオハナシではなく、競馬の礎としてその成長や発展を下支えしてきた“牝系”という視座からも、牝祖シラユキヒメは抜きん出て優秀であり、そのファミリーはわれわれ人間の競馬史に、新たな興奮と感動の物語を日々書き加え、大いなる未来への架け橋のあり方を紡ぎ続けているようです。
先週末のG2・京王杯スプリングCは、シラユキヒメの曾孫(ひまご)娘メイケイエールが、地力の違いにモノを言わせて正面突破から威風堂々と押し切り、2着には人気通り2番人気のスカイグルーヴが続きました。この娘も馬名が示す通り名牝エアグルーヴの曾孫で、叔父(母の弟)には二冠馬ドゥラメンテがいる良血馬です。2頭は良血同士の決着というだけではなく、3×4と4×3の違いはあっても、サンデーサイレンスの“奇跡の血量”を抱えているのは同じです。つい最近までは、モノ珍しげに見られていたサンデーサイレンス・クロスですが、もうすっかり競馬場の日常風景に溶け込みつつあります。それにしてもSSクロス馬同士のワンツー決着となると、これはまだ希少なケースなのですが。
“白毛ファミリー”の牝祖シラユキヒメはサンデーサイレンスの直仔であるため、曾孫の代、その次の玄孫(やしゃご)の代には、キツすぎる近親交配リスクを慎重に避けながら、偉大なサンデーサイレンスのクロス馬を生み出すことが可能になっています。シラユキヒメの家系は、たとえばその長女で後にメイケイエールの祖母となるユキチャン(父クロフネ)はG2・関東オークスなど交流重賞3勝の実績が示すように、どちらかというとダートで高いポテンシャルを発揮する馬が圧倒的多数なのは歴然としています。この血のさらなる進化を目指す上で、SSクロス戦略は持ってこいの妙案に思えます。一族の多くに見られ、ソダシ自身、メイケイエール自身の苛烈すぎる気性に悩まされるリスクはあっても、チャレンジする価値は十分あったようです。
サンデーサイレンスからディープインパクトへと受け継がれた王冠は、群雄割拠の乱世を平定した次なるチャンピオンが戴冠するのではなく、サンデーサイレンス・クロスという“血統構成上の概念”が君臨することになるのかもしれません。摩訶不思議な有り様ですが、これに血と肉を与え、概念ではなく現象として現実化していくのは、ホースマン一人一人の営為にかかっているのでしょう。ソダシたち白きサラブレッド一族の、美しくも気高い語りかけに耳を傾けることから始めたいと思います。