2022.05.06

進撃か逆襲か

ヨーロッパの今シーズンが幕を開けて1週間経ったか経たないか、あっという間でしたが、クラシック戦線を中心に白熱した戦いが日増しにヒートアップしています。昨年はゴドルフィン軍団のシンボルカラーであるロイヤルブルーの勝負服が、お膝元ドバイのワールドカップ制覇を皮切りに、英愛の両ダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、パリ大賞、英セントレジャーなど欧州ビッグタイトルの数々、北米最高峰のブリーダーズカップではBCターフとBCマイルの芝2大レース制覇と世界中の主要競馬場を舞台に大旋風を巻き起こしました。最大のライバルと自他ともに認めるクールモア勢は、主戦場のイギリスがコロナ禍の影響を引きずり続けたり、大黒柱ガリレオを失った精神的ショックもあったりして、近年にない大不振に陥っていたこともロイヤルブルー軍団には追い風になったかもしれません。

スタートした今季も、開幕を告げるクラシック第1弾の2000ギニーをコロイバス、ネイティヴトレイルがロイヤルブルーのワントゥーフィニッシュで幸先よく射止めます。この競馬巨人の進撃は、地の果てまでも続きそうです。ブックメーカー主要各社のダービーオッズ表は、上位にロイヤルブルーの勝負服に埋め尽くされる有様です。ゴドルフィンの天下統一は遂に成就したのでしょうか?しかしクールモア勢も、主戦のエイダン・オブライエン厩舎が調教場を置くバリードイルで淡々に見えて着実な準備を進めていました。

4月下旬のナヴァン競馬場で1日5勝の固め打ちを成し遂げると、次いでネース競馬場でも3勝を挙げ、ギニー後のチェスター開催へと歩みを進めます。この開催では間近に迫ったオークス&ダービーに向けての重要なトライアルレースが目白押し。中でもチェシーオークスは、リステッドレースで格下に見られがちですが、5年前に無名の1勝馬だったエイネブルが、ここで乗り替わったランフランコ・デットーリとともに勝ち星を積み上げると、英愛オークス、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、凱旋門賞連覇を含めて12連勝の無双街道のスタートなっています。またダービー馬を数々生み出したG3・チェスターヴァース、さらにリステッドのディーSと見逃せない重要トライアルが続きます。

全てのレースを制圧したのはバリードイル勢でした。チェシーオークスのソーツオブジューンは、前走で3馬身近くも突き放された難敵アバウヴザカーブを追って追って、遂にゴールライン上で捉えます。チェスターヴァースのチェンジングオブザガードは大本命のゴドルフィン馬ニューロンドンを直線で置き去りにして6馬身半のブッチギリを演じます。この馬、額に走る流星がクッキリ「7」の字型。見ていて嬉しくなる“ラッキーセブン”です。そしてディーSはキャリアの浅いスターオブインディアがダービー出走へ雄叫びを上げています。驚くのは勝ち馬すべてがガリレオ産駒であり、その鞍上がライアン・ムーアだったことです。クラシック本番を前にしてキッチリ成長を遂げてくるのは、この血統ならではのミステリアスです。コロナ禍の煽りによる移動制限や隔離検疫などの不自由からようやく解放され、競馬場から競馬場へと自在に渡り歩けるようになれば、ライアンの高い技術と深みをたたえた競馬勘は余人に抜きん出た凄みがあります。ロイヤルブルーの旗を翻させて“進撃”する巨人ゴドルフィンも王座を譲らないでしょうし、“天才”エイダン・オブライエンの手で立て直されたバリードイル勢も、ガリレオといい、さらに秘密兵器ディープインパクトといい、名手ライアンといい、“逆襲”の武器には事欠きません。今年のヨーロッパ競馬は、ますます熱く、面白くなりそうです。