2022.05.05
一芸は多芸に通ず
「一芸に秀でる」という故事があります。武術や芸術・芸能などの分野で人並み外れた才能を秘める人々をそう賞賛し、一目置くというか尊敬の気持ちを隠しません。近年はスポーツや芸術などに秀れて高いポテンシャルを持つ人々を対象に「一芸入試」とか「一芸入社」といった選抜方法も広く普及するようになっています。「一芸に秀でる」ことが、人間誰もが本来有する“多様性”を高いレベルで表現するものであり、それが“自己実現”を妨げない理想の社会のあり方への第一歩であると認識されるようになってきたからでしょう。そういう観点からも、“一芸”の価値を真摯に見直したいと思います。
さて、ここまでのドゥラメンテの血統的傾向は、今のところは“一芸派集団”とでも表現されたらいいでしょうか?タイトルホルダーは「マラソンの鬼」という“一芸”に秀でて、その右に出る者がない存在と広く認知されています。これにとどまらずドゥラメンテには、未勝利戦に始まって重賞のG3・小倉大賞典まで小倉コースで5戦5勝と無敵状態のアリーヴォのような馬もいます。まさに「小倉の鬼」の域に到達した異能の才を開花させました。アイコンテーラーは日本一の長さを誇る新潟コースの直線で長くバテない末脚をしぶとく繰り出して4戦4勝の無敵ぶり。今週のG3・新潟大賞典は52キロとハンデにも恵まれて、57.5キロと背負い頭のレッドガランなどに挑みかかります。果たして重賞初勝利!歓喜の凱歌を上げられるでしょうか?
一方、ダート6戦5勝でオープン入り初戦も楽勝したバーデンヴァイラーの存在も忘られません。この分野での“一芸”を極めつつある立派な「砂の鬼」に成長しました。初年度産駒のたった一世代に限っても、これだけバラエティ豊かな個性派が揃うのですから、その可能性たるや無尽蔵と言えるかもしれません。こうして見てくると、ドゥラメンテという一頭のサラブレッドがいかに傑出して、しかも多様な才能を、その体内で育てていたかを思い知らされます。
「一芸は多芸に通ず」という言葉も伝えられています。一芸に秀でるような優れた才能の持ち主は、何をやらせても抜きん出た技量を発揮するものだと至極わかりやすい故事です。様々な分野で歴史を書き換えるような偉業を成し遂げた西洋のレオナルド・ダヴィンチや、日本の平賀源内のような天才をイメージしたら良いのでしょうか?素直に考えて、ドゥラメンテはこうした天才たちの域に達した稀有な才能に恵まれたサラブレッドだと思います。様々なカテゴリーにおいて“一芸の鬼”を生み出しながら、結果として“多芸”のチャンピオンとなりおおせているドゥラメンテ。この血を後世にいかに伝え繋いでいくか?ホースマンに課せられた大きな宿題に、残された時間は多いとは言えませんが、まずは一歩、そしてまた一歩、自分にできる範囲で地道にコツコツと取り組むしかないのでしょう。