2022.05.02

ギニーのヒーロー&ヒロイン

競馬の母国イギリスの平地シーズン開幕を飾るクラシック第1弾2000ギニーと1000ギニーが、ニューマーケット競馬場の直線ローリーマイルコースで行われました。今年も馬や人、それぞれ様々な分野から“競馬の華”として、ファンの心を鷲掴みにする多様で個性的なヒーロー・ヒロインが誕生しています。まず世界のホースマンがこぞって称賛の声を挙げるのは、2000ギニーと1000ギニーの二つとも勝利の美酒で祝福されたジェームズ・ドイル騎手かもしれません。

すでに数々のビッグレースでの騎乗で世界的にも高い知名度を誇っていますが、近年は巨大サラブレッド軍団ゴドルフィンの専属としてウィリアム・ビュイック騎手とともに“飛車角”を張っています。立場上はセカンドジョッキーですから、騎乗馬の質で一歩譲る面はやむを得ません。しかし幅広いホースマンから深い信頼を寄せられ、稀代の快速キングマンの主戦ジョッキーとしての活躍など“記録にも記憶にも残る”ジョッキーとして知られます。今回のコロイバスでもぎ取った勝利の果実は、キングマンが生涯唯一不覚を取った2000ギニーでみごとに雪辱を果たしたことになります。さらにちょっと泣けるエピソードもファンを痺れさせます。

幸か不幸か今世紀最初で最高の怪物フランケルと全兄弟に生まれついたばかりに、“賢兄愚弟”と嘲笑されることも珍しくなかったノーブルミッションは、ちょっと気の毒な馬でした。しかし兄が牧場に去り、名伯楽サー・ヘンリー・セシル師を癌に奪われると、夢を引き継いだセシル夫人は伸び悩んでいた弟の新しいパートナーにジェームズ・ドイルを指名します。ミッションとジェームズは兄とは違う中長距離に活路を見い出し徐々に力をつけると、セシル夫人はラストランに英チャンピオンSを選びます。そこで待っていたのは、かつてジェームズが自らの手綱でG1を3連勝させチャンピオンホースに成長させたアルカジームでした。晩秋のアスコットは長雨が定番で、この年のミッションとアルカジームの死闘もドロンコ馬場で凄絶な叩き合いとなり、イギリス中が熱狂に包まれたと伝えられています。クビだけ勝ったノーブルミッションは英国最上のチャンピオンシップを“賢兄”フランケルとともに兄弟制覇して有終の美を飾ります。全兄とは真逆の“叩き上げの名馬”は現在は日本におり、今年最初の産駒が誕生しています。兄が傑出した日本適性を示しているだけに、楽しみが膨らみます。

1000ギニーを鮮やかに逃げ切ったカシュの鞍上ジェームズは、爽やかなライトブルーに両腕にネイビーブルーの輪をあしらった勝負服をまとっていました。風を切るように疾駆するライトブルーは、カッコ良さそのものですね。実は前日の2000ギニーでも同じ勝負服がファンを虜(とりこ)にしました。鞍上は別人でしたが、ロイヤルパトロネージュという馬が馬群を引き連れて気っ風良く逃げまくり、最後はジェームズ騎乗のコロイバスにねじ伏せられましたが、バテ込むことなく食い下がり小差8着に健闘しました。負けましたが、見せ場はたっぷりでファンを存分に楽しませてくれました。この“ギニーウィーク”を盛り上げた勝負服は「ハイクレア・サラブレッド・レーシング」という法人馬主さんのもの。日本で非サンデーサイレンス系の種牡馬として重要な働きをしているハービンジャーも現役時代にはこの勝負服で走っていました。日本が世界に近づいたのか?あるいは世界の壁が低くボーダーレスになって来たのか?いずれにしろ、世界の競馬が身近なものになりつつあるようです。