2022.04.28

馬の幸せを考える

競馬の母国イギリスでは、長かった冬の間に人々を楽しませてくれた障害シーズンがオフに入り、ニューマーケット競馬場で今週末に開催される「2000ギニー」とともに、いよいよ2022年の平地シーズンがいよいよスタートします。そのオンとオフの節目に、障害シーズンを彩り盛り上げたスターたちの活躍を締めくくる各種ランキングが発表され始めています。嬉しかったのは、リーディングサイアーのトップに君臨するイェーツの馬名を発見したときでした。

ご存じでしょうが、2006年から4年連続でロイヤルアスコットのゴールドカップを勝ち続け、同時にさまざまな名馬の中にあって誰よりもファンに愛された名馬です。彼を管理した当代きっての名伯楽エイダン・オブライエン調教師は昨年秋に50歳の誕生日を迎えています。クールモアグループの公式サイトは、師が育てファンを興奮させ感動させた心を震わせるような名馬たちの馬名で「50」の文字をコラージュして不世出の名トレーナーのバースデーを祝いました。G1勝利数だけで軽く300勝を越すような破格の成績を残してきました。ガリレオをはじめ歴史に名を残す存在も少なくありません。しかしコラージュの一番中心で、一番大きな文字で、一番目立っていたのは「イェーツ」その馬の名前でした。名匠エイダンにもっとも愛された馬だったようです。幸せな馬の話題に触れられて、心がホッコリします。

彼が4連覇の偉業を達成したゴールドカップは、自然の原野を取り入れてタフなことで有名なアスコット4000mという過酷な条件でおこなわれます。伝統があり、「ロイヤルアスコットの華」とファンの人気も絶大なのですが、特殊な条件でおこなわれる超長距離レースゆえ、種牡馬価値としての評価は必ずしも高いとは言えないようです。天皇賞(春)や菊花賞といったカテゴリーの頂点を制した名馬も種牡馬になれない日本ほどではありませんが、ステイヤーというより超ステイヤーのマラソンランナーの行く末が厳しいのはヨーロッパであっても同様のようです。イェーツの場合、常に無敵だったわけではなく、たとえばオーストラリア遠征のメルボルンCでは日本のデルタブルースの7着に敗れるなど取りこぼしもあった馬です。

しかし、クールモアとエイダン・オブライエン師は、サラブレッドの進化にはスプリンターの血が必要なようにステイヤーの資質も欠かせないという信念に誠実に従っています。そうした血統のためにクールモア種馬場の貴重な馬房を割いていますし、マラソン血統には障害馬専用の種馬場を準備しています。その背景には、英愛仏などヨーロッパ競馬先進国では障害が平地と変わらないほどレース数が多く、ファンの人気も平地以上で日本とは比較にならないほど膨大な種牡馬需要が存在しています。この差は大きいですね。とはいえ、種牡馬イェーツの道のりは平坦なばかりではなかったでしょうが、今季は障害界の最高峰・グランドナショナルを遂に勝ち獲り、産駒たちはコンスタントに勝ち星を上げて遂に障害種牡馬王へと昇り詰めました。本当に良かったです。平地・障害、それに馬術・乗馬など競馬のあり方をちょっと考えたいと思いました。