2022.04.11

名残りの桜花賞

今年の桜花賞は1頭の馬に注目していました。抽選でギリギリ出走に漕ぎ着けた1勝馬で、当日の人気も17番目のブービーでした。この馬に注目した理由は、出走18頭中で彼女だけが唯一のディープインパクトの娘さんだったからです。ご承知のようにディープインパクトと桜花賞の縁は浅からぬものがあります。2010年に初年度産駒のマルセリーナがディープの輝かしいキャリアにおける最初のG1かつクラシック勝利をもたらし、翌年のジェンティルドンナはヴィルシーナとワンツゥー制圧、さらにアユサンもレッドオーヴァルとワンツゥー決着、そしてハープスターがバトンを繋ぎ実に4年連続で“桜の女王”を生み出しました。連勝が途絶えてからもクリミナル、シンハライト、サトノレイナスの2着を死守しており、19年にはグランアレグリアが5勝目を飾っています。産駒デビューから11年間で5勝2着5回と“桜無双”を続けたことになります。

それだけで終わらず、12年にはフランスでビューティーパーラーがフランス版桜花賞である仏1000ギニーを勝ち、ディープの血は活躍の舞台を世界へ広げていきます。その後ビューティーはフランスの名匠エリー・ルルーシュ調教師から世界史的名馬フランケルを管理していたヘンリー・セシル調教師の下に転厩、素質に磨きをかけることになりますが、セシル師が「彼女はマイラーだね」とジャッジしたこともあって、ディープインパクト=マイラー説が広範に語られるようになりました。(もっともサクソンウォリアーで英2000ギニーを制覇したアイルランドの天才エイダン・オブライエン調教師は、ディープのステイヤー資質をも高く評価、スノーフォールに英オークスの歴史的圧勝を実現させましたが)

この桜花賞になくてはならないディープインパクトですが、残す世代は後1世代、今年が「見納めのサクラ」になるかも、そんな気持ちもありました。現2歳のラストクロップはわずか6頭しか登録されていません。内4頭が牝馬で、いずれ劣らぬ良血揃いですからノーチャンスというわけではありませんが、可能性としてはサクラ出走ゼロも覚悟しなければならないでしょう。そんなわけで“名残りのディープ”に注目したのですが、結論から言えば、想像以上に感動させてもらいました。

今年唯一ディープインパクトの血を引くパーソナルハイと吉田豊騎手は、素晴らしく勇敢なレースをしてくれたました。内枠4番から先行馬群の直後をロスなく追走して、直線は追って伸びが一枚違うインコースに各馬が殺到し、渋滞でゴッタ返す中、さらにわずかな空隙を狙って接触覚悟のバトルが繰り広げられます。パーソナルハイも内から弾かれて外に素っ飛ばされ勝ち馬のスターズオンアースにぶつかるなど何度か肉弾戦に巻き込まれています。それでも怯(ひる)まずゴールを目指して、勝馬からハナ+半馬身+クビ+クビ+アタマに踏ん張ったのは立派でした。スターズオンアースの川田騎手は「彼女の気の強さが勝因」と愛馬を誉め称えていましたが、今年の桜花賞は気持ちが良いほど「勝ち気で気の強い」サラブレッドがよくぞこれだけ揃ったものです。わずかのところでオークス優先出走権に手が届かず、これからの賞金加算はローテーション的にも厳しいでしょうが、ディープの血に恥じない素晴らしい桜花賞を見せてくれたパーソナルハイには感謝の気持ちでいっぱいです。お疲れさまでした。