2022.04.05

大阪杯の謎【前篇】

“絶対的”と信じて疑わなかった方も多いでしょう。堂々の年度代表馬が、負け知らずの距離で馬群に沈む光景を誰が想像したでしょうか?
エフフォーリアの大阪杯は、ゲート内で外傷を負った影響、また中間の調整など体調面に首をかしげる人もいるようです。経験がなかった関西遠征や初コースに理由を求める向きも少なくないようです。しかし年度代表馬に選出されるほど完成されたサラブレッドが、そうした体調面の理由だけで馬群に沈んでしまうのは考えにくい気もします。もしそうだとしたら、関係者はそもそもレースに送り出したりしないでしょう。レースを振り返りながら、考えれば考えるほど、“ミステリー”じみた思いが脳内を駆け巡ります。

中には、血統上の課題を指摘する見解もあるようです。ご承知のように父エピファネイアは、いきなり初年度産駒から牝馬三冠馬デアリングタクトをスターダムに乗せ、2年目エフフォーリア、3年目は今週の桜花賞で有力視されるサークルオブライフとそれぞれ世代を代表するヒーロー・ヒロインを生み出してきました。ここまで重賞10勝は同期キズナの16勝に一歩譲りますが、G1勝利数は7勝VS1勝と比較にならない圧倒的な大差をつけています。こうした大レース、中でもクラシックで傑出した実績を積み上げる能力に対する評価はウナギノボリ!今年の種付け料は1800万円と、歴史的名牝アーモンドアイで世界に舌を巻かせた天才ロードカナロアを越えて日本一の座に君臨しています。

祖父シンボリクリスエス、父エピファネイアともに歳を重ねるごとに、強さというより凄みを増した成長力に富んだサラブレッドでした。エピファネイアは、ダービーこそ2着に泣きましたが菊花賞の5馬身ブチっぎり菊花賞制圧は語り草です。さらに4歳秋のジャパンC圧勝も歴史に語り継がれる見事な勝利でした。ジャパンC2勝の女傑ジェンティルドンナ、日本とドバイでG1を勝ちまくったジャスタウェイ、天皇賞秋を電光石火の末脚で差し切り生涯ピークのデキにあったスピルバーグなど史上最上級のツワモノ連を向こうに回して圧勝した底力は空恐ろしいものがありました。シンボリクリスエスも3歳時と4歳時にそれぞれ天皇賞(秋)と有馬記念を連勝したチャンピオンホースですが、引退レースとなった有馬記念が想像を絶する強さでした。軽く回って来たように見えて、直線だけで9馬身!バケモノじみた強さでした。クラシックシーズンから一級品の走りを披露して、成熟を重ねるごとに磨きがかかる、こんな血統であれば期待が膨らみ続けるのも当然でしょう。

しかし現在までのところ、エピファネイアはクラシックシーズンでの圧倒的なパフォーマンスに比べれば、4歳以降の成績に不満が残るのも確かです。これまで古馬重賞を勝ったのは、G2アメリカンジョッキークラブ(AJC)杯のアリストテレス1頭のみ。まだ三世代だけですから、今後に傾向が大きく変わってくる可能性はありそうですが、先ほど例にとった同期のキズナをもう一度引き合いに出すと、函館2歳Sで一番星に輝いたビアンフェが4歳夏に札幌開催の函館スプリントSで3年連続で重賞制覇を積み上げています。阪神大賞典連覇で天皇賞(春)の有力候補にのし上がったディープボンドは、フランス遠征のG2フォア賞を逃げ切るなど4歳に本格化した“大器晩成”の見本のような馬です。海外遠征にも強い精神力の逞しさも一流で、ソングラインはサウジアラビアG3の1351ターフスプリントを競り勝ち、バスラットレオンはドバイG2のゴドルフィンマイルを勇猛果敢に逃げまくり大金星を上げています。今夏は競馬の母国イギリスのマイル頂上戦サセックスSへの挑戦プランも持ち上がっています。どんな戦いぶりを見せてくれるのか?楽しみでなりません。こうした小粒と思われて来たキズナ産駒が、思いがけない成長性を輝かせるのに対して、エピファネイアの可能性はどこにあるのか?そのあたりを少し推理してみたいと思っています。