2022.04.01

乱世の英雄

ドバイワールドカップデーの桧舞台・UAEダービーを真っ向からの力勝負で堂々押し切り、ケンタッキーダービーの切符を見事にもぎ取ったクラウンプライドは、ドバイから直接アメリカへと移動し、昨日3月31日に決戦の地・チャーチルダウンズに入厩しました。ほぼ一日掛かりの長時間輸送でしたが、馬は元気一杯のようです。鞍上も地元オーストラリアのビッグレースと重複するダミアン・レーン騎手から、日の丸エースジョッキーのクリストフ・ルメール騎手へのバトンタッチが決まり、これから1ヶ月余りを決戦の地の環境に慣れ親しみながらトレーニングを積んでいくことになります。

今年のケンタッキーダービーは、専門家のどなたも「史上稀に見る大混戦」「混沌(カオス)の戦国ダービー」と言葉を揃えておっしゃいます。混迷を深めている一番の原因は、アメリカンファラオ、ジャスティファイと2頭の三冠馬を含めて史上最高の5頭のケンタッキーダービー馬を出している天下無双の名匠ボブ・バファート調教師を襲った忌まわしいトラブルでした。昨年のダービー馬メディーナスピリットが禁止薬物使用を咎められて失格となり、バファート厩舎のチャーチルダウンズ競馬場やニューヨーク州から出走停止処分を受けたことに端を発します。バファート師は裁判所の判断を仰いでいるものの本番には間に合わず、有力馬のほとんどが転厩することになります。ドバイワールドカップで圧倒的な人気に支持されながら、日本馬チュウワウィザードにも差されて馬群に沈んだライフイズグッドもそんな1頭でした。ダービーでは有力馬とまでは言えないにしても惑星陣の一角に座を占めていたパインハーストが、断然の1番人気に祭り上げられたUAEダービーで日本馬クラウンプラウイドの最下位に惨敗しています。この一事を持ってしても、転厩や遠征など環境変化というのは簡単なことではないのでしょう。

カオス状況を象徴するように、牝馬陣営からも挑戦の雄叫びを上げる男勝りさんが出てきました。前述メディーナスピリットの王座簒奪でバファート師に並び直したケンタッキーダービー4勝の名匠ウェイン・ルーカス調教師が送り込む、 3連勝中のシークレットオースがその馬です。ルーカス師といえば34年前に牝馬ウイニングカラーズを擁してケンタッキーダービーに殴り込み、フォーティナイナー、ブラインズタイム、シーキングザゴールドなど今に伝えられる強豪を打ち破って、史上3頭目の牝馬優勝を成し遂げています。日本時間で日曜早朝にスタートするG1・アーカンソーダービーで牡馬を相手の力試しにチャレンジしますが、主催者は前売り馬券の発売開始をレース後に延期して、シークレットオースのレースぶりに注目しています。可能な限りの情報提供をおこなったうえで馬券を買ってもらおうということなのでしょう。フェアーな姿勢を評価したいです。

一方、BCジュベナイルフィリーズなど3つのG1を含めて5戦5勝の無敵街道を走るエコーズールーもスティーヴン・アスムッセン調教師が「ダービーも選択肢のひとつ」と明言しています。ただ、前走G2・フェアグラウンズオークスが久々とは言えハナ差の辛勝で、徐々に他馬との差が縮まってきました。新種牡馬ながら2歳リーディングサイアーに輝いたガンランナーの血がどんな成長力を切り開くのか?この点にも興味があります。クラウンプライドに話を戻せば、まだ底を見せていない奥行きを感じさせる伸びしろは、「混戦」と言われる究極の“乱世”を切り裂くヒーローの資格あり!時が経つにつれて刻々と期待が膨らんでいきます。