2022.03.23

龍王の末裔

今週は土曜がドバイワールドカップデーが華やかに開催され、翌日は中京の高松宮記念、そして阪神の大阪杯とG1ロードが続き、桜花賞、皐月賞で遂にクラシックが幕を開けます。さて話をドバイに戻すと、全8レースすべてに日本馬が出走、後半の4つのG1レースは日本でも馬券発売されます。サウジアラビアで日の丸をセンターポールに掲げ続けた日本調教馬の意気は最高潮です。メインのドバイワールドカップやレッドルゼルが出走するドバイゴールデンシャヒーンには砂帝国アメリカが誇りにかけて一戦級の強豪連を送り込み、ドバイシーマクラシック、ドバイターフなど芝の戦いには今季の飛躍が期待される上がり馬を軸にヨーロッパの秘密兵器たちが牙を研いでいます。そう簡単なレースになるとは思えません。

G1ドバイゴールデンシャヒーンに出走の日本馬はチェーンオブラブが1番ゲート、レッドルゼルは2番ゲートからの発走となります。一般論で言えば、“メイダン名物キックバック”の洗礼をモロに浴びかねない厳しい枠順ですね。チェーンやルゼルのような差し追い込みタイプの馬は、先行馬群が盛大に後方に撒き散らす土塊(つちくれ)がアメアラレと降り注ぐ中を追走することになります。少しでも被害を軽減しようとすればベタな戦略になりますが、さらにポジションを下げて、昨年のように最後方から追いかける形を執らざるを得ません。マイペースで気分良く逃げている馬を、不利を覚悟の捨て身の策で捉えるのは簡単ではありません。至難の業と言うより神業かもしれません。鞍上の剛腕ライアン・ムーアが死力を振り絞って追っても追っても、その不利を克服することができず2着と悔しい思いをさせられました。

昨秋のJBCスプリントもそうでしたが、前走フェブラリーSも道悪の高速馬場を意識して川田騎手がいつになく早めに前へと進出して積極的なレース運びを見せました。自力で王者への道を切り拓こうとする鞍上の覚悟が凛々しく頼もしく伝わります。しかし道中で長い間なし崩しに脚を使わされ瞬発力を削がれたこともあり、最後は4コーナーで1、2、3番手にいた馬が止まらず、そのまま上位を独占する流れとなりました。これも王座への道に横たわる試練だったのでしょうか?丁々発止の駆け引きの結果はアタリハズレが紙一重、競馬というのは本当に難しいものです。

「完成期に入って来た」と安田隆行調教師はルゼルの近況をそう語っています。父ロードカナロアは香港では「龍王」の馬名で呼ばれた怪物級の名馬でした。難関を次々と克服し、日本から世界へ、スプリント王からマイル王へと駆け昇り、世界を震撼させた凄まじいほどの成長の軌跡を思い起こせば、もう一段のステップアップがあっても驚けない気がします。情勢はかなり向かい風が吹き寄せているのでしょうが、戦いはいつも有利な状況ばかりではありません。龍王の血筋、その末裔たる誇りをメイダンの夜空に打ち上げてくれるでしょう。