2022.03.22

爛漫の春

爛漫の春が、すぐそこまでやって来ました。サラブレッドにとっては生涯一度のクラシック、その第1弾の桜花賞、皐月賞のステップレースもあらかた終了し、いざ出陣へ向けての優先順位がようやくクッキリと浮かび上がって来ました。今年はディープインパクトとキングカメハメハの二代巨頭が亡くなって三度目のクラシック。想定される顔ぶれからは、偉大な彼らが築き上げて来たクラシック戦線ここ10年ほどのパラダイム(枠組み)が大きく変化する予兆も見え隠れします。いつも以上にワクワクドキドキの気持ちが昂(たか)ぶるシーズンの幕が上がります。

桜花賞戦線の優先順上位には、ディープインパクトの姿が見当たりません。ディープと桜は、初年度産駒のマルセリーナがクラシック初勝利を収めると、翌年はジェンティルドンナが牝馬三冠を総ナメ、さらにアユサン、ハープスターと4年連続桜の女王を輩出したユカリ深い間柄です。サラブレッド能力の根幹とされるスピードと瞬発力を試されるマイル戦における絶対能力を証明し、世界を代表する大種牡馬への一歩を踏み出したのが桜の舞台でした。“ディープのいない桜花賞”は考えにくいのですが、この“異変”に象徴されるように今年は出走馬の顔ぶれも大層とバラエティに富んでいます。“盟主交代”への追い風が吹き始めているのでしょうか?

桜戦線はディープご本尊こそいませんが、3頭出しのミッキーアイルや安定株のキズナといった直系に加えて、新種牡馬のディーマジェスティ、シルバーステートなどの後継馬が、“ディープの牙城”と胸を張れる本丸を守ります。一方の皐月賞にはディープインパクトの3頭が堂々と舞台の中央に居並びます。これに対してハーツクライが4頭出しの構え、出て来れば主役級のダノンベルーガはダービー狙いが本線でしょうが、朝日杯勝ちの2歳王者ドウデュースなど層の厚さはディープ軍団にヒケを取りません。芝もダートも水準以上の能力を発揮している新種牡馬ドレフォンも2頭を送り込んで、今春の種付けには良血花嫁が殺到しそうです。新種牡馬勢ではキタサンブラック産駒のイクイノックスも有力馬の一頭として人気を集めるんでしょうね。

キングカメハメハは現3歳がラストクロップ、この“最後のクラシック”にダンテスビューを送り込みます。母クロウキャニオンの13頭目の産駒ですが、ここまで兄姉すべてをJRAで勝ち上がらせている“ギネスもの”スーパー記録の保持者です。オーナーの金子真人さんはディープインパクト、キングカメハメハ、クロフネなどで知られる不世出の名オーナーブリーダーですが、クロウキャニオンの金字塔も偉大すぎる名馬たちに劣らない輝きを放っています。これでクラシックの大輪を添えるようなら話が出来すぎでしょうか? ともあれ、いずれにせよ今は亡き王者の遺児たちが、誇りにかけてこれまでのパラダイムが守り抜くのか?新勢力の進撃によりいつもとは変わった風景を体感することになるのか?いよいよファンファーレが響き渡ります。