2022.03.15

競馬とセリ市

春一番の大舞台・ドバイワールドカップデーが間近に迫ってきました。今年は開催週の水曜日に「ドバイ・ブリーズアップ・セール」と銘打った2歳馬のトレーニングセールが準備されています。しかしドバイは、サラブレッド三大始祖の故郷という誇り高いお国柄ながら、熱砂を生む気候や狭い風土も影響して、香港と並んで“馬産なき競馬大国”として有名です。ドバイを拠点に馬づくりに乗り出すかどうか、遠い将来は分かりませんが、当分は世界各地から招待した馬主さんなど一流ホースマンへの“おもてなし”という位置付けなのでしょう。昨年は英愛ダービーをはじめ世界中でビッグレースを勝ちまくった“目利き”のゴドルフィンが、リーダーシップを振るうセリ市というのも興味深いのは確かです。

ヨーロッパにおける競馬開催、たとえばイギリスを例に取ると、ロイヤルアスコット、グローリアスグッドウッド、ニューマーケットのジュライ開催、ヨークのイボア開催など各地を巡回しながら、それぞれ1週間くらいのカーニバル(お祭り)形式を繰り返していく構造になっています。そこでは2歳戦から古馬同士の戦いまで、スプリント・マイル・中長距離・超長距離とカテゴリー別にバラエティ豊かに番組編成され、開催前にはセリ市が開かれるのが慣習となっています。

ロイヤルアスコットの場合は、セリには現役馬も上場され、落札した競走馬は翌日からのレースに出走させることができます。新馬主にとっては、幸運の後押しがあれば女王陛下から優勝カップを贈られる栄誉を味わうことができるわけです。サービスもここまでくると言葉を失ってウットリするばかり。セリとレースがセットになった競馬開催はフランスやアメリカでも盛んにおこなわれており、これらはもう“文化”の域に達しています。隣接する馬産地ノルマンディーとリゾート地ドーヴィルを舞台とする夏競馬は、ヨーロッパのホースマンになくてはならない風物詩として定着しています。

今回のドバイでは70頭がエントリーされましたが、特徴的なのはアメリカ志向が強めに表れていることです。アメリカンファラオ、ジャスティファイの三冠両馬、新進のガンランナーやアロゲート、リーディング王イントゥミスチーフなど、最高峰ドバイワールドカップの頂上を夢見ることができる血統馬たちがキラ星のように並んでいます。もちろんフランケルやキングマンといったヨーロッパの大人気種牡馬もシッカリとラインナップされています。中には大御所エイダン・オブライエン厩舎でG1を4勝した名牝ピーピングフォーンと日本のダイワメジャーとの間に誕生した牡駒の顔も見えます。早熟性に優れたダイワメジャーと欧州の重厚血脈との組み合わせは話題を呼びそうです。競馬を興行という側面から考えれば、長い歴史と伝統を持ち庶民の敬愛を集めるカーニバル様式で運営されるのは素晴らしい知恵と感服します。そこに「セリ市」という仕掛けが加わることも素晴らしく感じられますね。