2022.03.14
モーリスの憂鬱
モーリスはちょっと憂鬱な気分で今年の正月を迎えています。日本競馬の大黒柱だったディープインパクトが亡くなった2019年にエピファネイアやキズナ、1年遅れて翌年にドゥラメンテとモーリスがそれぞれ初年度産駒を競馬場にデビューさせています。いずれも傑出した競走実績を手土産に種牡馬入りしたのですが、偶然にも歴史的大種牡馬の突然の死と重なったため、“ポスト・ディープ四天王”に擬せられました。日本の良血を凝縮したようなドゥラメンテが若死したのは惜しまれますが、彼ら四天王はさすがに種牡馬としても極めて優秀で、エピファネイアは種付料1800万円とNo.1サイアーに上り詰め、キズナも1200万円と順調に上昇カーブを描き続けています。しかしモーリス1頭だけカヤの外、あろうことか種付料700万円にダウンして初日の出を仰ぐことになります。
ご承知のように、モーリスはトレーニングセールでノーザンファームに購買された馬です。公開調教で一番時計を叩き出して注目されましたが、それでも落札価格は税込み1050万円とリーズナブルなものでした。馬づくりも一流なら、相馬眼も超一級です。トレーニングセール出身馬は“即戦力”がウリモノですから、モーリスも仕上がりの良さにモノを言わせて新馬戦を勝ち上がります。しかし祖父ヘイルトゥリーズンに遡るのはサンデーサイレンスなどと同じですが、大レースでの一発大駆けを生む重厚さへの傾きがあるロベルトの血は、その完成度においては晩成の趣きがあります。サンデーサイレンスからディープインパクトへと華麗に引き継がれたクラシックシーズンにおける完成度は、残念ながら見劣りします。しかし成長力に関しては並ぶものがないほど!目を見張らされます。
その成長へのトリガーは、父スクリーンヒーローもそうでしたが、息子モーリスもまったく同じ、タマタマかもしれませんが「転厩」を機に大成しました。「(モーリスは)感情の揺れ動きを逆に集中力に変えられる面白いアスリート」とノーザンファームの方から聞いたことがあります。転厩というのは馬にとっては一生を左右するほどの“一大事”だろうと想像しますが、この父仔は転厩でガラリと馬が変わっています。フィジカル面の成長期と、転厩という環境変化が引き金となったメンタル面の充実が重なって“意外性の名馬”が誕生したといえるのかもしれません。
奥手系のモーリスも、ここへ来てようやくエンジンがかかってきたようです。3歳時にG1スプリンターズSを制したピクシーナイトは、さあこれからという時にアクシデントに巻き込まれ気の毒でしたが、昨日のG2金鯱賞で急上昇ジャックドールがG1馬2頭を従えて圧勝しました。次はG1ロードでも大きく弾けてくれるはずです。シャトル先のオーストラリアでは、ヒトツという馬がG1ヴィクトリアダービーとG1オーストラリアンギニーを勝ってクラシック戦線を勢い良く駆け抜けようとしています。後者のレースではディープインパクト産駒のプロファンドが1番人気でした。ある意味“ポスト・ディープ”への一里塚になるのかもしれません。完成度VS成長度の戦いは、この後も勝ったり負けたりの一進一退が続くのでしょうが、モーリスは一歩二歩と差を詰め、今までの“憂鬱”を吹き飛ばしてくれるでしょう。