2022.03.11

競馬の方舟

今日は11度目の「3・11」を迎えます。復興もまだ道半ば、被災者の皆様の心の傷は未だ癒えることがありませんが、被災者の皆様にお見舞いを申し上げ、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたします。

旧約聖書の「創世記」に、驕り昂ぶった(おごりたかぶった)人類に大洪水が襲いかかるエピソードが語られています。神は事前にノアにだけ警告を発し、ノアはそれに従って方舟(はこぶね)を建造し、妻と3人の息子とそれぞれの妻たち、全ての動物の番(つが)いを乗せて、40日40夜の大洪水を耐え凌ぎ、その後150日間の漂流を乗り越えて人類と生きものたちを守り抜き、未来を“創世”します。

話は飛びますが、開業したての蛯名正義厩舎が、藤沢和雄先生から引き継いだ33頭と早期特例登録の2歳馬1頭の計34頭の陣立てで、いよいよ船出します。藤沢先生の薫陶を授けられた経験豊かで有能なスタッフの皆さんがご一緒ですから、大船に乗った気分!安心してお任せできますね。とはいえ、JRAから貸し付けられる管理馬房はわずか16、蛯名師はいきなり馬房のやりくりに苦労させられそうです。しっかりと伝承された藤沢流の馬優先主義を真摯に貫く中で、心身ともに健康に走らせるのは大変です。東サラの所属馬は6頭が入厩していますが、蛯名師を手こずらせたり悩ませたりしないか、入学したてのヤンチャ盛りの息子たちの一挙手一投足にハラハラする思いです。

そんな中で、土曜の阪神10レースの「飛鳥S」でレッドアルマーダが新生蛯名厩舎の名誉ある一番槍を言いつかりました。先週は慌てず騒がず動きなしでしたが、今週もアルマーダ1頭だけの出陣です。責任重大!アルマーダにも鞍上の池添謙一騎手にも肩にズシリとプレッシャーの重圧がのしかかるでしょうが、勝ち負けは天が知るのみ、思い切り伸び伸びと駆けて欲しいもの。持てる力を存分に出し切るようなレースをしてくれたら最高ですね。

ちょっと欲張れば、ステーブルメイトのレッドモンレーヴが藤沢先生の最後の1勝となったJRA1570勝目の記念碑を建てたように、アルマーダが蛯名先生の最初の1勝という栄光の瞬間のお手伝いができるようだと、もっと嬉しいのですが…。蛯名正義新調教師には、藤沢先生から引き継いだ“競馬の方舟”を無事に航海させ、ノアの故事にならうならスプリンター、マイラー、チャンピオンディスタンス、ステイヤー、できれば芝に止まらずダートホースも障害馬も、次の時代を“創世”するあらゆる種子を多彩に芽吹かせて大きく開花させ、ファンを喜ばせる仕事をやり遂げてもらえたら有り難い限りです。