2022.03.07

反撃のデュオ

春めいて、すっかり“競馬日和”らしい日が続きます。昨日の中山競馬場のディープインパクト記念は、G1レース以外では今世紀初めて売上100億円を突破したそうです。一昨日の阪神ではチューリップ賞が前年比150%近い大幅増を記録しています。ファンを本気にさせる面白さや奥の深さが根づいて来たのでしょうか?それにしても、ナミュールのチューリップ賞は強かったですね。課題だったゲートをスムーズに出ると、道中での我慢も利いて末脚の切れ味も極上、クオリティの高い内容で、桜のティアラを一気に手繰り寄せる価値ある勝利でした。

このレースの2着ピンハイと3着サークルオブライフは、ともに目下売り出し中のサンデーサイレンス(SS)のクロス配合馬なのですが、ナミュールは非SS系ハービンジャーの血をうけています。牝馬三冠馬デアリングタクト、年度代表馬エフフォーリアなどの出現でSSクロスの評判が急上昇している反作用か?非SS系の価値が薄れ昨今はハービンジャーも不遇をかこった格好でした。ところが今春はクイーンCでプレサージュリフトが反撃の狼煙(のろし)を上げ、ナミュールのトライアル圧勝で“桜戦線”の主役に躍り出ました。彼女は桜花賞馬キョウエイマーチの孫娘で、母サンプルエミューズの妹には今をときめく世界のマルシュロレーヌがいる旬の血統です。さらに母系を辿れば競馬を国民的エンタテインメントに高めた立役者の偉大な一頭オグリキャップと同じ祖先クインナルビーに遡ります。チューリップ賞の馬券が爆発的に売れたのも、この偉大な母系の御利益でしょうか?

ルージュスティリアは残念でした。ナミュールの前走・阪神ジュベナイルフィリーズの再現ビデオをリプレイするような大出遅れをやらかし、それでも諦めずリカバリーして馬群に潜り込んだ直線、今度は前が壁になり外に出そうにもナミュールなどが幾重にも横を塞ぐ窮屈なレースを強いられます。やっと進路が開けて、そこからメゲずに良い脚で伸びたものの時すでに遅し、圧勝したナミュールと同タイムの33秒9で上がったのですが6着まで。こうなると桜花賞には時間がなさ過ぎます。先に進むには乗り越えねばならない関門がいくもあります。必ずしも順調ではなかったスティリアの歩む道は、これで“新規巻き直し”ということになりそうです。しかし人間の一生も、競走馬の生涯も幕を閉じるまで分からないものです。結果は想定外でも、端々にのぞかせた豊かな才能は彼女の行く手を輝かしく照らし出してくれました。藤沢和雄先生の金言「一勝より一生」が身に沁みて尊く感じられます。

ご承知のようにスティリアは、体内にエリザベス女王の愛馬ハイクレア4X5のクロスを宿しています。ハイクレア自身は英1000ギニーと仏オークスを連勝したスピードとスタミナ兼備の名馬でしたが、その豊かなポテンシャルを繁殖牝馬としてディープインパクトを筆頭に世界中で多様な名馬に伝えて来ました。同構成のクロス馬レッドキングダム(父ディープインパクト)が、イギリス王室直伝の無尽蔵のスタミナを生かして中山大障害で栄光のゴールを駆け抜けたのは忘れられません。この高貴な血筋は、むしろ桜花賞よりオークス向きのフシも感じられます。反撃のデュオ(二重奏)を待ちます。