2022.03.03

リヤドの絆

先週サウジアラビア・リアドで開催されたサウジカップデーは、日本調教馬が出走6戦中4勝!キングアブドゥルアジーズ競馬場の芝とダートを縦横無尽に駆け抜けて、“アンビリーバボー!”(信じられない)な快進撃で世界を唖然とさせました。全体で賞金総額3510万ドル≒40億円超と度肝を抜くようなスケール を誇り、G3でも1億円越えのG1級高額賞金レースがオンパレードでプログラムされていただけに、その衝撃はひときわ強烈でした。熱心に開発されて丁寧に整備されたコースはスビードを存分に生かせる仕様で、シーズン前のヨーロッパからは一流馬の参加が少ない時期でもあり、日本馬にとっては好走のバックグラウンドが揃っていたのは間違いないでしょう。

しかし、今後もキングアブドゥルアジーズが“日本馬の庭”であり続けるわけではないでしょう。今回のサウジカップにはダートの本家アメリカから一流馬が複数参戦していましたし、コスパの高い戦いに欧州勢も重い腰を上げてくるでしょう。更に地元サウジアラビア調教馬の台頭は、かなり確実な近未来だと思われます。サウジカップで劇的な地元馬勝利を飾ったエンブレムロードは、世界を代表する一流馬を向こうに回して、いささかも“格負け”しない威風堂々の末脚を繰り出して、天宙に輝く南十字星から祝福を浴びました。アメリカのジュドモントファームで生まれた外国産馬ですが、サウジアラビアのサルマン王子が馬主となり、地元アルムラワー厩舎で調教され、キングアブドゥルアジーズをホームコースに力を付けてきた上がり馬です。

生まれ故郷のジュドモントファームは、ご存じのようにサウジアラビア王族出身のカリド・アブドゥッラー殿下が創設し、レインボウクエスト・ダンシングブレーヴで凱旋門賞連覇したのを皮切りに、直近はエネイブルの神々しい戦跡、現在はヨーロッパリーディングサイアーのフランケル、瞬発力に並外れたキングマンの二本柱を擁し、世界競馬にもっとも大きな影響力を及ぼしている生産牧場です。サルマン王子は次期国王を約束された王太子であり、軍事と経済の舵取りを任されている第一副首相としてサウジアラビア第一級のVIPで有名です。

アラブ世界では昨年亡くなったアブドゥッラー殿下もそうでしたが、王位継承権の遠い人はヨーロッパなどを拠点に、ビジネスマンとして成功するかたわらホースマンとしても名を上げる方々が少なくありません。サウジカップの創設と運営にリーダーシップを振るってきたファイサル王子もその一人です。王子は快速インヴィンシブルスピリットのオーナーブリーダーとして競馬界に大きな貢献を果たし、所有馬メイクビリーヴ産駒ミシュリフが昨年のサウジカップで王子に勝利の美酒を味あわせています。オーナーに限れば地元が連覇中というのがサウジカップの偽らざる実像ですね。また王子のインヴィンシブルスピリットがアブドゥッラー殿下のキングマンを輩出するのですから、こうしたエピソードの影で働き続けるリヤド・ホットラインの絆の深さには、改めて感銘させられます。“裏舞台”から世界の競馬を支え続けてきた“リヤドの絆”が、サウジカップの創設と成長を機に“表舞台”にも足跡を記すことになるのでしょうか?