2022.02.28
リヤドの奇跡
「アメージング!」
リヤドで行われたサウジカップデー1日で成し遂げた重賞4勝の快挙を、それらすべての手綱を握ったクリストフ・ルメール騎手は、そう簡潔に表現しました。驚きや喜びを伝える際に外国人がよく使う言葉ですが、日本の若者風に言えば「あり得ない!」みたいなことでしょうか?ニュアンスとしては「驚き、感動させられ、神々や周りの人々への感謝」の気持ちが込められているように感じられます。
日本馬が国際舞台で日の丸を掲げるのは“悲願”とされた時代が長く続きました。まして連戦連勝するなんて、ひと昔前なら想像もできなかった“アメージング”でしょう。パート2国が主催する国際競馬であり一枚落ちでは?と見当違いしそうですが、世界トップクラスの競馬先進国からそれなりの馬が参集しており、簡単に勝てるほど甘い舞台ではありません。芝もダートも素晴らしく良く整備されたスピード馬場だったことが、日本馬の良さを引き出してくれたとも言えそうです。サウジアラビアのホースマンに感謝しなければなりません。やたら高額賞金ばかりが話題にされますが、これだけのコースを造成し、これだけのレースを運営できるホースマンの底力は、パート1国にも見劣りしない一流の域に達しています。“アメージング”への不思議な力はリヤドのあちこちにしっかりと宿されていました。
さらに「アメージング!」だったのは、ルメール騎手とともに金字塔を打ち立てたサラブレッドたちの血統です。いずれも日の丸代表らしくサンデーサイレンス(SS)の血を継承しており、オルフェーヴル産駒オーソリティとキズナ産駒ソングラインはSS3X4、パドトロワの血を引くダンシングプリンスは同4X3のクロス配合され、父系と母系の双方から偉大なSS18.75%の“奇跡の血量”を授かっています。レッドシーターフHを圧勝したステイフーリッシュは父ステイゴールドを通じた直系のSS3代目の血筋です。日本の競馬を大きく盛り上げるとともに、信じられないほどレベルアップさせた偉大なるサンデーサイレンスの末裔たちが成し遂げた歴史的快挙は、“リヤドの奇跡”と呼ばれて、末長く伝えられることになるでしょう。
リヤドの地に降臨、奇跡のような快挙を成し遂げたサンデーサイレンスの血は、後継筆頭だったディープインパクト亡き後も日本競馬を底から支える本流として見事に復権を果たしつつあります。現時点で分かっているのは、その神秘的なポテンシャルの秘密がサンデーサイレンス自身同士の“クロス”配合にありそうなことです。既にエピファネイアを通じたSS 3X4クロスは、牝馬三冠デアリングタクト、年度代表馬にして現役最強馬エフフォーリアを輩出しています。ミッキーアイルはSS 3X4の産駒メイケイエールにスプリンターとして大成しそうな雰囲気が漂っています。案外な不振が心配されていたオルフェーヴルのように復活へ雄々しく羽ばたこうとしている種牡馬も少なくありません。ディープ&キンカメ不在の“戦国時代”は始まったばかりですが、スプリンターからステイヤーまでカテゴリーの壁を超えて個性的なサラブレッドの宝庫となりつつあるSSクロスの威力から目が離せそうにありません。