2022.02.26

リヤドの夢

今夜サウジアラビア・リヤドのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われるG1サウジカップは、ご承知のように1着馬に1000万ドル≒11億5000万円という目の玉が飛び出るような破格の高額賞金が贈られることで有名ですが、創設3年目の新参ものにも関わらず、世界のトップホースたちが競う“賞金王”争いを語る上で欠かせない最重要レースとして強烈な存在感を放っています。競馬情報の老舗として世界中のファンに重宝されている「レーシングポスト」の集計によれば、歴代の世界賞金王はオーストラリアのウィンクスだそうです。彼女は25連勝を含む43戦37勝と人間の想像を突き破る神業を成し遂げ、うちG1レースは母国の中距離カテゴリー最高峰である春のコックスプレート4連覇、秋のクイーンエリザベスS3連覇など営々25勝を積み重ね、ナント1439万ポンド余≒22億円超を稼ぎ出しています。高額賞金狙いで海外に出かけるわけでなく、母国ファンのためにだけ一国に根を下ろして勝ちまくったバウンティハンター(賞金稼ぎ)っぷりは実に潔(いさぎよ)く天晴れ!惚れ惚れさせられます。

逆に世界を渡り歩いて短期間にウィンクスに次ぐ21億円余を稼ぎまくったのが、アメリカの怪物アロゲートです。彼はデビューが遅れて無名の存在だったのですが、重賞初挑戦のG1トラヴァーズSで13馬身半ブッチギリを演じてスターダムを駆け上がり、続くBCクラシック、ペガサスワールドCと北米屈指の高額賞金レースから当時は世界最高賞金だったドバイワールドCまで破竹の連勝劇で、ウィンクスに抜かれるまで世界賞金王に君臨しました。種牡馬として初年度産駒が日本で大活躍していますが、若死したのが何とも惜しまれます。

世界歴代ランキングの3位に日の丸を背負ったアーモンドアイが登場します。以下ジェンティルドンナ、オルフェーヴル、キタサンブラックとベストテン内に日本調教馬が4頭もランクインしているのは、さすが“賞金王国ジャパン”の面目躍如ですね。それらに続いて9位にランクインしているのが今夜半のサウジカップで連覇を狙うミシュリフです。彼はここまで13戦6勝、G1は3勝とランクインしている名馬たちに比べれば、いささか地味な印象は拭えません。しかし2100mの仏ダービー、2410mのドバイシーマクラシック、2050mのインターナショナルSと異なる国の異なる競馬場で異なる距離のG1を勝って高い評価を得ています。決定打は昨年のサウジカップ制覇で、芝とダートの“真正二刀流”は評判をさらに高めました。現在17億円余を稼いでいますが、連覇を果たすようだと8頭ゴボウ抜きで楽々とウィンクスを超え、夢のようなお話が現実になります。

しかし“リヤド・ドリーム”の実現は簡単ではさそうです。今年3回目にして晴れてG1に格付けされ、これまでとは相手が違う印象を強くしています。“ダートの本場”アメリカからは、先日のジョッキークラブ裁定でケンタッキーダービー馬へ繰り上がったマンダルーンが牙を研いでいます。このチャーチルダウンズからもたらされた栄誉が伊達でないことをキングアブドゥルアジーズで証明して、ダート最強馬に名乗りを上げます。絶好調が伝えられる日本のテーオーケインズも招待されたドバイワールドCをキャンセルして背水の陣を敷き、ここ一本に全力投球の構えに不気味さが漂います。アメリカでの殊勲の大駆けの記憶が生々しいマルシュロレーヌはラストランになります。勝ち負けではなく女王の誇りに忠実な立派な走りを見せてほしいです。