2022.02.09

夢しかない!

種牡馬界の帝王ガリレオが没して半年、その最良の息子フランケルがリーディングサイアーの座を襲名し、祖父サドラーズウェルズに遡る三代にわたる絶対王者の物語がスタートしました。つい先日、7日の月曜日にはイギリスのウォルヴァーハンプトン競馬場から嬉しいニュースが届けられました。フランケルと日本の誇りウオッカの間に生まれたセヴンポケッツがオールウェザー(AW)戦で初勝利を挙げています。偉大な名牝の6番仔ですが、彼女にとってもヨーロッパ初勝利となりました。ロジャー・ヴァリアン厩舎に所属し、馬主もオーナーブリーダー谷水雄三さんからヴァリアン夫人の花子さんへと代わって心機一転の快勝でした。世界最高水準のG1レースの一方で、5歳の未勝利馬に出走機会が与えられているヨーロッパ競馬の懐の深さに感銘させられます。どんな条件でも勝ち抜くフランケルには、早くも帝王の風格が漂い始めていますね。

さて、競馬場を日曜の東京に戻すと、ダービーと同コース同距離でファンの関心が高い「ゆりかもめ賞」がおこなわれました。歴史を振り返ると、勝った馬、敗れた馬それぞれに大器の雛(ひな)が群れを成す光景が浮き彫りにされます。02年のゆりかもめ賞3着シンボリクリスエスが青葉賞を経てダービーで2着したのが最高ですが、大事に使われてジックリ素質が熟成され、能力を大きく開花させて天皇賞(秋)と有馬記念を2年連続して連勝する前人未到の偉業を成し遂げます。孫のエフフォーリアがその背中を追いかけているのが現在進行形の最高のドラマですね。

今年の勝ち馬レヴァンジルもそうした一頭でしょうか?大器晩成の風を漂わせています。父が日本競馬の結晶とリスペクトされる名血群を継承しながら悲運にも夭逝したドゥラメンテ、母トゥリフォーは凱旋門賞8勝と信じられない偉業を積み重ねる名門アンドレ・ファーブル厩舎で鍛えられ、ノーザンファーム総帥の吉田勝己さんの勝負服でG3カブール賞などに勝った怪物フランケルの初年度産駒です。昨年は偉大な父ガリレオを倒して、遂に悲願のヨーロッパのリーディングサイアーに君臨したフランケルですが、早々とブルードメアサイアー(母の父)の分野にも活躍の場を広げる時代がやってきました。

フランケルの場合、そのブランド価値のさらなる高みを目指して、牝馬の質(競走成績・血統・産駒の育成環境や入厩先など)から希少価値担保を目的の種付け頭数制限まで厳密なレギュレーションが守り抜かれたと伝えられます。特に種牡馬入りした1年目と2年目は、名門ジュドモントファームの総力を上げて細心の上にも細心なブランド管理が完遂されています。JRAで勝ち名乗りを上げている母父フランケルは、レヴァンジル以外にもう一頭います。東サラの勝負服が良く似合う、父ジャスタウェイのルージュエヴァイユがその馬です。彼女の母ナッシングバットドリームズも選び抜かれたフランケル初年度産駒のエリートです。その母は社台ファームの顔・吉田照哉さんに購買されて、そのトレードマネーで凱旋門賞の高額な追加登録料を支払い、凱旋門賞をレコード勝ちしたデインドリームです。世界最高のホースマンたちからホースマンたちへとバトンリレーされて、まさに“ナッシングバットドリームズ(夢しかない)”物語が、途切れることなく綴られていきます。