2022.02.01

“HERO”の時代【北米篇】

近年、年明けの競馬シーンはダートの超高額賞金レースがシリーズ化されて、世界中のホースマンの関心を高めています。2月下旬にキングアブドゥルアジーズ競馬場で開催される1着賞金1000万ドル≒11億円のサウジC、3月下旬はメイダン競馬場で同696万ドル≒8億円G1・ドバイワールドCがおこなわれます。その夢の架け橋として“露払い”役を務めるのが、1月下旬の同175万ドル余≒2億円のG1・ペガサスワールドC。この土曜におこなわれた同レースには、先日発表されたロンジン主宰のランキングでレーティング129ポンドを獲得、世界最強馬の栄誉に輝いたニックスゴーと、成長著しい若武者ライフイズグッドが顔を揃えました。事実上の“全米最強HERO決定戦”です。

この両雄は極めて似通った個性の持ち主で知られています。ともにマイルを逃げ切る飛び抜けたスピードと一瞬にライバルを斬り捨てる鋭い瞬発力を兼ね備え、それら双方の持続力に卓越した底力あふれるサラブレッドです。ニックスゴーは一昨年のBCダートマイル圧勝で一流馬の仲間入り、昨年は距離克服に専念、1600mから2000mへと延ばしたBCクラシックで二階級制覇を成し遂げています。ライフイズグッドは西海岸の名門ボブ・バファート厩舎で偉大な先輩である三冠馬アメリカンファラオ、ジャスティファイに劣らぬ評価を得た素質馬です。怪我でクラシックを棒に振ったり、厩舎を襲った薬物疑惑で東海岸の名伯楽トッド・プレッチャー師の下に転厩したり、順風満帆とはいかなかったのですが、BCダートマイルを規格外の強さで圧勝しています。そのときのレーティング124ポンドは古馬ニックスゴーには見劣りしますが、同じ3歳馬エフフォーリアの天皇賞(秋)快勝時と同評価です。伸びしろを見込めば非常に高い評価と言えるのではないでしょうか。

唐突ですが、同日にマルシュロレーヌが激勝したBCディスタフが参考になりそうです。そのレースは大本命レトルースカが猛烈なハイペースで逃げ、マルシュは後方を追走するのが手一杯でした。ところがゴール前には、思わぬ落とし穴が待ち構えていました。快調に飛ばしていた先行馬の脚がバッタリ止まり、一瞬で前後の馬群が入れ替わる大逆転劇が繰り広げられます。マルシュが鮮やかに突き抜け、レトルースカは無残にもブービーの10着に大敗しています。

話はライフイズグッドに戻ります。そのイントゥミスチーフ産駒はレトルースカと肩を並べる猛ラップで逃げながら、バテるどころか更に加速させる勢いで2着以下を5.75馬身突き放す圧勝劇を演じます。1600mと1800mの違い、牡馬と牝馬の差があったとしても、十分に衝撃的なパフォーマンスでした。この“似たモノ同士”がガチで対決したらどうなるか?全米のファンが固唾を飲んでエキサイトする気持ちは良く分かります。

レースはご存じの通り、ハナを主張して先頭を奪ったライフに対して、最内枠からスタートで一歩遅れたニックスゴーは、いったん下げて外に持ち出してから再上昇するしかなく、ライバルを追い掛ける展開を強いられます。気分良くスピードアップするライフを遮るものはありません。余裕綽綽に流しながらゴールしたライフに3.25馬身差、内を伸びるスティルトボーイを押さえ込むのが精一杯だったニックスの完敗でした。展開のアヤと言って良く、もう一度相まみえれば結果は違ったものになるでしょうが、ライフイズグッドの強さは本物。これは紛れもなく“新チャンピオン”、“新HERO”の誕生と言えそうです。2022年のダート界は、このイントゥミスチーフ産駒が主役を張るのは間違いがなさそうです。順調ならサウジからドバイへ転戦することになるのでしょう。日本の最優秀ダートホースに輝いたテーオーケインズ、BCディスタの“ヒロイン”マルシュロレーヌもエントリーしている熱砂の戦いは、もうすぐスタートします。