2022.01.25
帝王ガリレオの贈物
横山典弘さんの一流芸である後方待機策には、いつもながらハラハラさせられます。この日曜の中山競馬場、G2アメリカジョッキークラブカップ(略称AJC杯)を直線一気の追い込みで差し切ったキングオブコージには、ハラハラの後に心臓が飛び出しそうなドキドキもたっぷり味わえて、いろんな意味でスリリングなレースとなりました。ドンジリから2番目をマイペースで悠然と駆けていたキングオブコージ、骨折による長期休養から立ち直るのはもう少し先かと、ハラハラというより気分は諦め半分でした。4コーナー手前から外を捲ったときも、勝負になるとはまだ信じられません。ところが中山名物の急坂に差しかかるあたりから空気を震わせるように景色が変わっていきます。外伸びの馬場コンディションも味方したのでしょうが、直線一気の“鬼脚”とはこの日のキングオブコージのためにあった言葉だったようです。横山さんは、いつも“良いもの”を見せてくれますね。
父ロードカナロアは、先週のG3中山金杯で強い勝ち方をしたレッドガランに続く金星を挙げて、10年連続でチャンピオンの座を譲らない“絶対帝王”ディープインパクトを抜き去り、瞬間風速とは言えリーディング首位に浮上しました。先はまだまだ長いのですが、勝利数でも20勝とディープの15勝を大きく上回って安定感をさらに高めており、中長距離でも重賞勝ちを積み上げている昨今の充実ぶりなら、不動とされるディープ帝国の堅城を打ち破ることも夢ではないしょう?楽しみなシーズンになりそうです。
キングオブコージはロードカナロア産駒ながら2000mのレースではこれで8戦5勝、母ファイノメナから母父である“世界の種牡馬王”ガリレオの血を受け継ぎました。半妹ハラジュク(父ディープインパクト)は、フランスの超名門アンドレ・ファーブル厩舎で仏オークストライアルのG3クレオパトル賞2100mを快勝して注目されました。母の全姉ナイタイムを母として生まれ従兄弟にあたるガイヤース(父ドバウィ)は、荒削りなレースっぷりながら突出した才能を示してヨーロッパの主要G1を勝ちまくり、ヨーロッパ年度代表馬に選出されチャンピオンとして頂点を極めています。このチャンピオンホースを生んだ名牝ナイタイムは、前出のようにガリレオの初年度産駒で、彼女が制した愛1000ギニーは後にG1馬92頭で通算193勝と不滅の金字塔を樹立する偉大なガリレオの永遠に記憶されるG1勝利の輝かしい一番乗りでした。世界競馬の頂点にそびえ立ち、まさに今が旬の名血をたっぷり注ぎ込まれたキングオブコージは、今後大きいところで一発あっても驚けない予感がみなぎっています。
しかし日本のディープインパクトは今年デビュー予定となる数少ない明け2歳馬がラストクロップとなり、世界競馬史を塗り替えた帝王ガリレオも昨年亡くなっています。その昨年は、帝王ガリレオの最高傑作フランケルがチャンピオンサイアーの王座を奪い、早々と世代交代を告げています。ガリレオも、その父サドラーズウェルズも日本ではまったく良いところがなかったのは有名ですが、後継世代はフランケルを代表格に日本においても“さすがの走り”を披露しています。こうした競馬が織り成す物語の数々をライヴで見られる幸福を感じるこの頃です。