2022.01.23

“自分のカタチ”は宝物!

今年の中山競馬場は今のところ、まるで“ビックリ箱”です。“競馬初め”の新春5日にメデタイ中山金杯でレッドガランが大金星の祝杯を飲み干したかと思えば、続く最終レースはレッドライデンが鮮やかに逃げ切って、初春早々レッド軍団が誇らかに勝鬨(かちどき)を上げました。さて、今週土曜の中山は準オープンの初富士S、そのレッドライデンが“精密機械”のように計算し尽くされたラップを刻んで絶妙の逃亡劇を再現し、大幅な相手強化のハードルを飛び越えてオープン入りを決めました。年の変わり目を越えて馬が変わったようなレースぶり、やはり“自分のカタチ”を持った馬は強いですね。

中山コースとウマが合うのか?2000mの距離が心身のバイオリズムを活性化するのか?気分が変われば馬まで変わるのか?たぶんその全部だろうと思います。デビュー戦から鞍上に武豊、クリストフ・スミヨン、オイシン・マーフィーなど世界を代表するレジェンドを次々と迎えて来た期待馬だったのですが、2000mどころか1600mでも掛かる折り合い難から出世が遅れに遅れてきました。しかし前走で久しぶりに新馬戦以来の2000m戦に挑んだところ、スタートダッシュが飛び抜けて鋭いわけでもないライデンが、サッと先手を奪うと正確なラップを積んで後続を2馬身突き放す快勝!これには驚きました。中山の2000mコースは、スタート後に広々と長いホームストレッチが続き、少々の遅れならカバーできるほど伸び伸び走れ、そこから1コーナー、2コーナーの急カーブでたっぷり息が入れられる“先行馬天国”仕様が特徴です。これが“自分のカタチ”に繋がったのでしょうか?


父エイシンフラッシュは、半姉アーバンシーの超良血馬キングズベストを父に、ドイツ血統のセントレジャー馬を母に持つ重厚な血統に生まれ、強豪揃いのハイレベルなダービーの直線で32秒7の“鬼脚”を炸裂させて突き抜けた印象が余りにも強すぎて、12ハロン≒2400mでこそのステイヤーという先入観があります。しかし実際には、先日のG3京成杯2000mでオニャンコポンが父子制覇を決めたように、実は10ハロン≒2000mランナーの資質に秀でた血統ではないかと感じています。自身、デビューから重点的に2000mを使われ、京成杯を含めて3戦3勝と無敵を誇りました。位置取りが悪かった皐月賞は追い込んで届かず3着に敗れましたが、この教訓を生かして前めで内々を通る省エネ走法で温存した末脚を直線で爆発させたのがダービーのジャイアントキリング(大物喰い)の一撃でした。“10ハロンランナー”の個性を知り抜いた上で挑んだ覚悟の12ハロンだったわけです。その後もフラッシュは天皇賞(秋)で2つ目のG1勲章をもぎ取り、香港遠征の10ハロンG1でも堅実に走り続けて大崩れせず、10ハロン戦は生涯10戦4勝3着5回とほぼ常に勝ち負けを争う高いレベルで走っています。オニャンコポンもそうですが、レッドライデンにも“10ハロンランナー”の遺伝子が脈々と伝わっていると信じて良いでしょうね。

晴れてオープン入りとなる今後は相手も段違いに強くなります。しかし幸いなことにオープンクラスの10ハロン戦は豊富なラインナップが組まれています。頂上を争うG1は天皇賞(秋)と大阪杯の2つだけですが、G3クラスとなると全国の各競馬場を網羅してレースが並びます。強者に一矢を報いるチャンスが眠るハンデ戦が充実しているのも特徴で、出走機会を広げるリステッドレースの存在も頼もしい限りです。10ハロンランナーは番組面では恵まれた存在と言えます。多くの競馬場が2000mは中山に類似したコース設計なのも心強いですね。丈夫で健康に息長く走り続けることができれば、活躍の舞台はそこかしこに開かれています。焦らず弛(たゆ)まず、レッドライデンが“自分のカタチ”を大切に走り続けてくれたら嬉しいのですが。