2022.01.19

アジアの風

人馬併せて16カテゴリーの各部門3頭(3人)から構成されるエクリプス賞ファイナリストが発表されました。世界一のサラブレッド生産大国であり、広大な大陸全土で世界トップレベルの競馬王国が展開される北米アメリカ、その最大の競馬の祭典「ブリーダーズカップ(BC)デー」に遠征し、牝馬のダート最高峰「BCディスタフ」の女王に君臨したマルシュロレーヌ、同じく芝の頂点「BCフィリー&メアターフ」を戴冠したラヴズオンリーユーがノミネートされたのは、正直驚かされました。過去に海外からの遠征馬が伝統と権威に彩られたエクリプス賞を受賞したのは、芝部門でミエスク、ウィジャボード、ゴルディコヴァなどヨーロップの歴史的名牝たちがそれぞれ二度ずつ君臨しています。しかし、これほどの名牝と肩を並べるところまでに日本調教馬が近づけるなどと想像したこともありませんでした。2頭の牝馬は、本当にとてつもない偉業を成し遂げたものだと思います。

さて、ダート牝馬部門の古馬チャンピオンにはマルシュロレーヌ、レトルースカ、シーデアズザデヴィルの3頭がノミネートされました。いずれもディスタフで直接対決した間柄で、ライバルを実際に打倒しているマルシュロレーヌには大きなアドバンテージがあります。簡単にライバルのプロフィールとその比較をご紹介しましょう。シーデアズザデヴィルは昨年のケンタッキーオークスの女王で、今季もG1・2勝など安定した走りを見せていますが、宿敵レトルースカが放つ強烈なオーラには一歩譲るようです。レトルースカはメキシコデビューで“雑草育ちのシンデレラ”と大変な人気があります。故国で8連勝したスピードは国境を越えて徐々に磨きがかかり、環境変化にも慣れた今季はG1・4勝の固め打ち!この1年のトータルの印象ではマルシュを完全に上回っています。頂上決戦ディスタフは常識外れの高速ラップでブッ飛ばし、結果的に絵に描いたような前崩れの競馬を招き寄せた張本人なのですが、その結果とそれ以外の実績をテンビンにかけるような緊張感あふれる刺激的な選考になるのでしょう。ダート古馬部門の女王を北米調教馬以外から出したことはありません。センセーショナルな“大事件”と現地は沸騰するかもしれません。

一方、芝部門の女王候補はラヴズオンリーユー、サンタバーバラ、ウォーライクゴッデスの3頭。こちらはラヴズオンリーユーが戴冠に一番近い距離にいる印象でしょうか?地元馬ウォーライクゴッデスに強調できるポイントが見当たりません。ライバルのサンタバーバラはアイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎で一番星と騒がれた期待馬で、僚馬でディープインパクト産駒のスノーフォールが圧勝した英オークスでは、こちらが断然の1番人気でした。夢破れてアメリカで再起を目指し、ベルモントオークス、ビヴァリーディSとG1を連勝しています。その後、調教中にスノーフォールと全く同じ骨盤骨折で不慮の死を遂げ、女王の称号は諡(おくりな)になってします。それにしても今季のオブライエン厩舎は散々でした。大黒柱ガリレオの死、スノーフォールやサンタバーバラなど名馬名牝の早逝、G1勝利数ではライバルのゴドルフィンに大きく遅れを取ってしまいました。今年は名誉挽回と大きな動きが見られるかもしれません。

エクリプス賞の最終選考結果は、各カテゴリーのチャンピオンとその中から選ぶ“チャンピオン・オブ・チャピオンズ”年度代表馬とともに、2月10日(現地時間)に発表されます。今年の年度代表馬の最有力候補となっているニックスゴーは、オーナーがKRA(韓国馬事会)という変わり種。ご存じのように、韓国では日本のJRAに当たるKRAが種牡馬を輸入保有して無料の種付け事業に取り組んでいます。ニックスゴーは今月末にラストランとなるG1・ペガサスワールドCを控えています。引退後も当面はアメリカに止まってスタッドインしますが、いずれは韓国に渡るのでしょうか?日の丸ナデシコ軍団のマルシュロレーヌ、ラヴズオンリーユー、そしてニックスゴー、競馬の世界にアジアの風が吹き始めているのかもしれません。