2022.01.18

レッドカーペットへの関門

ダート競馬の世界では女王決定戦の最高峰「ブリーダーズカップ(BC)ディスタフ」を劇的な追い込みで制圧する歴史的偉業を成し遂げた日本調教馬・マルシュロレーヌを取り巻く情況が揺れ動き、ファンを戸惑わせています。その顛末(てんまつ)を時系列で追えば、多くのファンが期待したJRA賞特別賞による顕彰が見送られ、NAR(地方競馬全国協会)は地方競馬の発展に大きく貢献した人馬を顕彰する「NARグランプリ」で特別表彰馬に決定します。「残念だったね」と「おめでとう!」が混在する不思議な気分です。しかし話はこれで終わりません。ヨーロッパの「カルティエ賞」と並んで世界競馬の最上位に君臨するアメリカの「エクリプス賞」が素早く動きます。

日本調教馬にとっては、“夢のまた夢”だったエクリプス賞に、なんとマルシュロレーヌが矢作芳人厩舎の僚馬ラヴズオンリーユーとともに、ダート部門と芝部門それぞれの「女王」候補にノミネートされたという驚愕のニュースが飛び込んできたのです。映画の世界に喩(たと)えれば、日本アカデミー賞で議論沸騰していたら、いきなりハリウッドから本場のアカデミー賞授賞式の招待状が届き、レッドカーペットの神々しいサクセスロードが目の前に現れたのです。JRA、NAR、そしてアメリカ、どれがどうという話ではありません。世に広く輝き渡っている数多(あまた)の「賞」は、その主催者が信ずる理念に基づいて信念を持って執り行えば良いことで、部外者が『どれが正しく・またどれが誤った判断か』など斟酌(しんしゃく)すべきものではありません。ただ愛好者の一人として“残念に”思ったり、“嬉しさに”湧き立ったりすることはよくあります。

しかし今回、各団体がそれぞれの立場で持論を展開してくれたのは有り難く感じました。異論あり反論あり、議論百出の中で競馬百年の理想が磨かれるからです。まず今回、JRA賞の経緯に関して「彼女のBCディスタフ制覇は傑出した偉業であり、その功績は疑う余地がない。しかし過去の事例との比較で年間を通じての活躍という点で見劣るのは否めず、今回は断腸の念で見送ることとした」と丁寧な説明がおこなわれましたが、この点に関しても議論が交錯しました。おっしゃることは分かりますが、マルシュロレーヌの昨年は年明けの大井G3・TCK女王盃に始まって、3月の川崎G2・エンプレス杯を連勝、牡馬混合のG3・平安SとG1帝王賞は敗れたものの、盛岡の牝馬限定G3・ブリーダーズゴールドCは楽勝しています。牝馬同士は3戦3勝の負け知らず、女王の資格は十分に満たしています。

「JRAの主催レースでないからノーカウント」と言うならまだ分かりますが…。日本のJBCレディスクラシックではなく、海の向こうのBCディスタフを選択したのも、たまたま昨年のJBCは金沢開催で諸般の運営事情で1800mの施行距離が1500mに短縮され、彼女にとっての適距離をチョイスした結果がデルマーの1800mだったと言うことに過ぎません。馬にも陣営にも他意はなく、至極ナチュラルで真っ当な意思決定でした。組織ごとに縦割りにされたそれぞれの賞と、世界を境目なく横断的に動く馬たちと…。この相反する事実を統一するのは一筋縄ではいかないでしょうが、誰にも分かりやすいのが難問解決への鍵でしょうか?引き続き考えていきたいと思います。