2021.12.25
紅の新星
評判馬・期待馬・良血馬が一同に集結する有馬記念の週の中山競馬場で行われた新馬戦でルージュエヴァイユが鮮やかにデビューを飾りました。紅(くれない)の新星の誕生です。G1当日の当該競馬場で行われる新馬戦は、伝統的にビッグネームな顔ぶれが揃うことが多いようです。馬主さんや調教師さんなど関係者の皆さんの思い入れの深いレースの日に初陣を果たせば、なにがしかの縁で結ばれる繋がりが生まれるでしょうし、もっと現実的に有力ジョッキーが勢揃いする週末であれば選択肢もグンと広がる戦術上の動機もあります。会員の皆さん、ファンの方々には愛馬・ご贔屓(ひいき)がG1ウィークという“特別の日”にデビューしてくれるのは、かけがえのない歓びでしょう。
さて、百戦錬磨の戸崎圭太騎手にエスコートされて13番ゲートからスタートしたルージュエヴァイユ、ゲートは問題なく普通に出たのですが、ダッシュが一息で下がりながらポジションを探して結局は中団につけます。ご承知のように、前半は37秒5-37秒5と新馬戦にありがちな落ち着いた緩ペースで位置的には厳しい流れでした。馬群を縫って徐々に差を詰めますが、位置を上げるまでには至らず直線に向かいます。ここで漸くエンジンが掛かったのか、1頭だけ次元の違った脚でグングン伸び始め、次々と前の馬を交わして進みます。しかし前方では好位から抜け出した1番人気のヴァンガーズハートが確勝態勢を固めゴールへ駆け込もうとしています。見た目には「届かないかも?」でした。
ところがエヴァイユはそこから第2弾ロケットを噴射させ、信じられない瞬発力を繰り出しました。グングンの伸びからスパッと切れて、ゴールラインではハナだけ差し切ってくれました。見た目にもそれがクッキリ焼き付けられる“大きなハナ”でした。交わし去ったヴァンガーズハートは“現役最強”の呼び声がもっぱらのエフフォーリアの下という“旬の超大物新馬”です。有馬記念の週の中山競馬場で、その有馬の1番人気に支持されている“現役最強馬”の半弟を打ち砕いての勝利は価値あるものだったと思います。先々を考えれば、この時期に何とかデビューできた幸運も味方しそうです。
とは言え、クラシックロードはそう平坦では済まないでしょう。無事で順調に仕上げられて完成度が高く、様々なレースを通じ蓄積した経験の抽斗(ひきだし)の多さは、エヴァイユには未だないものです。それでもエヴァイユは血統的にも世界クラスのレベル。母ナッシングバットドリームズは、凱旋門賞馬デインドリームの初仔で、世紀の怪物フランケルの初年度産駒という世界中のホースマンから熱視線を注がれた超期待馬でした。イギリスの新進気鋭ロジャー・ヴェリアン厩舎でデビュー直前まで行きましたが無念のリタイア、吉田照哉オーナーの下へ帰り社台ファームで繁殖牝馬として将来を嘱望(しょくぼう)されています。祖母から母へ、母から仔へ、紡がれた夢が実を結んでくれないものでしょうか