2021.12.20
“役者血統”【前】
サンタクロースが多忙に追われる季節になると、競馬界ではプレゼントならぬ1年を取りまとめた統計データや様々な出来事を振り返る情報が一斉に送り届けられます。先日フランスから届いた種牡馬たちの種付け頭数ランキングは、海を越えて我が国ファンをビックリ仰天させ、次に大喜びさせるサプライズの爆弾が仕込まれていました。一足早く粋で最高のクリスマスプレゼントになりました。
昨今のフランスにおける種付け事情は、種牡馬王シユーニが英愛に比較すれば気持ち“安め”の設定になっている当地では、“天井”とも噂される14万ユーロ≒1800万円に達して、新たなスター誕生を待ち望む傾向が強まっているようです。そんな中で、凱旋門賞、英チャンピオンSと好走を重ねたシリウェイ輩出のガリレオ系ガリウェイが169頭の牝馬を集めランキングトップに踊り出してました。ここまでなら驚く理由もないのですが、種付け頭数164頭と首位ガリウェイにわずか4頭の少差で続いたサイアーの名前を確認して、我が目を疑わなかった人はほとんどいなかったと思います。日本で繋養されていた頃は、優駿SS(スタリオンステーション)で供用されますが、年間で数頭程度の需要しかない完全なマイナー種牡馬でした。それがいきなり164頭ですから、驚くなと言う方が無理というものです。我々の想像を遥かに超える“大事件”がそこに存在していました。
バンデという馬をご記憶の方も多いかと思います。アイルランド生まれでゴリゴリのヨーロッパ風ステイヤー血統、我が国有数の“国際派トレーナー”矢作芳人調教師の薫陶を受けましたが、スピード優先の日本の競馬に向くとは思えない血の持ち主でした。しかし持って生まれたポンテンシャルの高さは並ではなかったのでしょう。3歳デビューと仕上がりは遅めでしたが、夏を迎えて力をつけはじめ、秋の菊花賞では怪物エピファネイアの3着に食い下がり、距離延びてこそ真価発揮の血であることを証明します。
4歳時も距離3000mの阪神大賞典でゴールドシップの3着とステイヤー資質を花開かせると、秋にはオーストラリアへ飛び、コーフィールドCからメルボルンCと世界のステイヤーがその大目標に掲げるビッグイベント挑戦のプランが準備されます。しかし“好事魔多し”、調教中のアクシデントで出走を断念、帰国後も長い闘病生活を強いられます。その後、優駿SSで不遇をかこっていたのは前述の通りです。しかしこの馬には、「オヌシ、役者やのう」と感嘆するしかない“運命のイタズラ”が波のように押し寄せる数奇な血が潜んでいるようです。人々の想像を超える華のある名場面を現出する“役者血統”がそれです。お話は、バンデの父オーソライズドに遡ります。