2021.12.08

ホクトベガ

JRAがこの1年を振り返ってダート戦線での活躍馬を顕彰する「最優秀ダートホース」の話題を追っています。チャンピオンズCを圧勝した新星テーオーケインズが、来年以降の大きな期待も込みでチャンピオンベルトを腰に巻くのは当然だろうという思いと、アメリカに渡って本場最高峰のひとつ「BC(ブリーダーズカップ)ディスタフ」で歴史を書き換える衝撃の大金星をもぎ取ったマルシュロレーヌにも女王にふさわしいティアラをあげたいという気持ちが複雑に交錯します。歴史的にも日本ダート競馬の頂点とされてきたジャパンCダート、その後継レースであるチャンピオンズCの勝ち馬に「最優秀ダートホース」が集中しているのは、賞の成り立ちからも当然なのでしょうが、馬格とパワーが幅を利かせるダート界で力の限りを振り絞って頑張った牝馬にも心から謝辞を贈りたいのも本音です。

マルシュロレーヌに先立って、牝馬の身で「最優秀ダートホース」に輝いた馬が1頭だけいました。その紅一点がホクトベガです。彼女の名前を“全国区”へと一躍高めたのは「ベガはベガでもホクトベガ!」とG1・エリザベス女王杯の波乱のゴールを告げる馬場鉄志アナウンサーの実況でした。人気は桜花賞・オークスを制した二冠馬ベガでしたが、スタミナにモノを言わせたホクトベガが、後に名マイラーとして歴史に名を刻む才媛ノースフライトと本家ベガを引き連れて真っ先に栄光のゴールへ飛び込んだのでした。

しかし、彼女はコンスタントに安定した走りを見せるタイプではなく、格下相手にも不甲斐なく敗れるような脆さに悩まされます。エリザベス女王杯以後は4歳時、5歳時と長く伸び悩んでいた彼女に、中野隆良調教師はデビュー以来、不動の主戦であった加藤和宏騎手から若手の横山典弘騎手にチェンジした上で川崎の交流重賞・エンプレス杯への出張を命じます。この年は中央と地方の交流レースが自由化された“開放元年”にあたります。その魁(さきがけ)として彼女と横山騎手に白羽の矢が立ったのでした。そしてレースが終わってみれば2着を3秒6、目測で20馬身と目を疑うような大差でブッチ切っていました。

6歳時は年明けからダート路線に狙いを定めて、川崎記念、まだG2格付けだったフェブラリーS、帝王賞、マイルチャンピオンシップ南部杯などダート重賞レースを8戦8勝の無敵ぶり。その抜きん出たパフォーマンスの質の高さを広く認められ、牝馬ながら堂々と「最優秀ダートホース」に選出されます。当時は交流重賞が未格付けだったのですが、ドバイから招待状が舞い込むのも当然の強さでした。しかしドバイ・ナドアルシバ競馬場で彼女を悲運が襲ったのはご存じの通りです。ダートG1の勲章は授けられずとも、芝&ダート二刀流の先駆者であり、ダートグレードレースの流布者であり、何より品格の高さがファンに愛された馬だったと思います。