2021.12.07

「JRA賞」の視点を考える

JRA賞の「最優秀ダートホース」部門は、その歴史を振り返ればジャパンCダート、現在はチャンピオンズCの勝者にほぼ限定して贈られる栄誉に特化されています。その慣例にならえば、今年のダートチャンピオンホースは先だってのチャンピオンズCを圧勝したテーオーケインズで決まり!そういうことで良いのでしょう。チャンピオンズCの一発だけにとどまらず、強敵揃いのG1帝王賞も勝っているのですから、文句のつけようがありません。とは言え、本場アメリカの頂上レースの一角を形成するBCディスタフで歴史的大金星を挙げたマルシュロレーヌのことも忘れられません。

歴史的快挙と言えば、東日本大震災直後のドバイワールドCで歴史的金字塔を打ち立てたヴィクトワールピサが鮮明に思い出されますが、彼は4歳以上の古馬チャンピオンに選出されましたが、「最優秀ダートホース」の勲章はドバイがオールウェザー(AW)開催だったことも割引き(あるいはノーカウントに)されたのでしょうか?そのドバイは2着でも、ジャパンCダートを勝っているトランセンドの頭上に輝いています。この前例を持ち出せば、マルシュロレーヌの偉業も随分と影が薄くなってしまいそうです。

JRA賞と銘打たれているだけに、JRAで施行される様々なカテゴリーの最高レースの勝者を讃えるという成り立ちに、少しの矛盾もないのですが、JRAが自分自身の栄耀栄華を自画自賛する、ちょっとナルシスティックな視点をずらして見ると、もう少し競馬全体を眺める志向があってもいいのかな、という気がします。とくにダート競馬の場合、JRAだけですべてが完結しているわけではありません。ダートグレード競走に代表されるように、その運営のほとんどを地方競馬に頼っているという事情も色濃く存在しています。

テーオーケインズ自身が、才能の片鱗をきらめかせ、今日の王座に上り詰めたのも昨年暮れの大井競馬場での厳しい試練の洗礼を経験したからでしょう。年末の大一番G1東京大賞典の桧舞台で、3連覇の大偉業を成し遂げたオメガパフュームから歴戦の強豪連中を向こうに回してクビ+半馬身+ハナ+クビ+ハナの大接戦を演じています。時計にしてコンマ2秒、着差にすると1馬身の範囲内に6頭が塊(かたま)ってゴールしたことになります。この経験が、眠れる巨龍を覚醒させたのは間違いないでしょう。JRAだけでは綴れなかった物語です。「JRA」という冠にこだわるのではなく、競馬それ自体の大きな成長に繋がるような視線が少しあっても良いのでは、そんな気分もあります。