2021.11.25

暫定王者エピファネイア

我が国におけるサラブレッド生産の総本山・社台SS(スタリオンステーション)から来年度の種付料が発表されました。日本競馬界にとって喫緊の課題である“ポスト・ディープインパクト”の座をめぐる競い合いは、まだ答が出たわけではありませんが、社台SSのリーディングサイアー“暫定王者”のチャンピオンベルトは、種付料1800万円と大きく増額されたエピファネイアの腰に巻かれました。今年初めにはロードカナロアが1500万円で“暫定チャンピオン”となり、エピファネイア、キズナ、ドゥラメンテが揃って1000万円で追いかける立場でした。

しかし超良血馬ドゥラメンテが菊花賞馬タイトルホルダーを出しながら不幸にも早逝し、キズナも安定したアベレージヒッターぶりを発揮する中で、エピファネイアの爆発は記憶にも記録にもクッキリと刻まれるものでした。3世代で重賞8勝は、同じ年に種牡馬デビューしたキズナの15勝に比べればやっと半分程度なのですが、中身の濃さは半端じゃありません。キズナが先日のエリザベス女王杯で初G1を戴冠したのに対して、エピファネイアはご承知のとおり、いきなり初年度からデアリングタクトが牝馬三冠に輝き、エフフォーリアが皐月賞を制し、ダービーはハナ差2着でしたが、天皇賞(秋)で三冠馬コントレイル、女帝グランアレグリアを倒して価値ある1勝を加えています。

重賞8勝中G1を5勝というのは、尋常ならざる底力と舌を巻くしかありません。遡(さかのぼ)れば、4代父ロベルト、祖父シンボリクリスエス、父エピファネイア、どの馬も歴史を書き換えるような大一番に、とんでもない力を絞り出す馬でした。ビッグレースになればなるほど、信じられない強さを爆発させる底力の継承は見事というしかありません。産駒のどの馬もコンスタントに走るということではありませんが、ときに大物や怪物たちを送り出すのは血に潜む神秘パワーのなせる技なのでしょうか?

良く指摘されるように、デアリングタクトもエフフォーリアも、ともにサンデーサイレンス4x3と“奇跡の血量”の持ち主です。ちょっと古臭い匂いもする話題ですが、サンデーサイレンス系牝馬の優秀さ自体はいささかも古びません。エピファネイアの母シーザリオから伝えられたサンデーの父、エフフォーリアの母ケイティーズハートやデアリングの母デアリングバードを潜ったサンデーの血が神秘な化学変化を発生させて、素晴らしい末裔たちが世に送り出されたのだと思うしかありません。そうでなければ、少なからず“重たさ”を内包するロベルト系の血が、軽いと言われる日本の馬場で弾ける理由が見つかりません。

同じくロベルトにたどり着くモーリスの成功も、サンデーサイレンス牝馬の功績が大きいと考えられます。スプリンターズSでモーリスにG1の金看板をプレゼントしたピクシーナイトは、母系にサンデーの血が見当たりません。しかし母父キングヘイローの母グッバイヘイローは名馬サンデーサイレンスに肩を並べるヘイローが生んだ稀代の名牝です。このヘイロー・クロスがサンデーの香りを伝えているのでしょう。引き続き、折に触れてこれら種牡馬関連の話題を追っていきたいと思います。