2021.11.04

王者降臨の秋

単勝2.0倍と揺るがない信頼を寄せたファンの眼力には舌を巻かされましたが、G1・JBCスプリントを圧倒したレッドルゼルの充実ぶりにも驚かされました。“王者の降臨”、そんな輝かしい瞬間に立ち会えた幸せを噛み締める思いです。大外枠から発馬してスムーズにポジションを確保すると、先行馬群を射程圏に収めて直後を威風堂々と追走します。王者の風格のようなものまで伝わってくるようです。4コーナーで川田将雅騎手は内を突く戦略を選択します。コーナーワークの利もあって、一瞬で先頭に接近すると並ぶ間もなく抜き去り、次の瞬間には1馬身、2馬身と一完歩ごとに突き放し、短い直線で3馬身ちぎり捨てる圧勝でした。

金沢競馬場は1周1200m、1400m戦は4つのコーナーを回る小回りコースです。一般的に回るコーナーが増えるほどインコースが有利になるものですが、それを相殺する意味で内ラチ沿いは砂が深く、スピードが殺される重い馬場設計を施されているのが特徴です。この日は大幅にレコードが更新されたように軽めの造作だったのでしょうが、それにしてもルゼルの走りは圧巻を極めるものでした。今春のG1・ドバイゴールデンシャヒーンは、激しいキックバックが行く手を遮る先行馬絶対有利の馬場でしたが、剛腕ライアン・ムーア騎手のアシストもあって2着にまで追い込みました。底力の確かな馬だなぁ!と感嘆したのを覚えていますが、この日は夏を越して心身ともに大きく成長した姿を見せてくれました。王者の貫禄すら感じさせられます。

この後は安田隆行先生が構想するように、今年と同じフェブラリーSからドバイゴールデンシャヒーンのローテーションでいいのでしょうね。ダートスプリンターは、社台グループが導入したドレフォンに大成功の気配が漂っており、同じく社台導入のドバイゴールデンシャヒーン連覇マインドユアビスケッツが続き、今週のBCスプリントをラストランに来日するフィレンツェファイアなど生産界の人気は高まる一方です。

成長を重ねて“円熟の境地”に達しようとしている今なら、1600mという“距離の壁”も突き破ってくれそうな期待が膨らみます。種牡馬価値も格段にランクアップしそうですね。ルゼルは“ポスト・ディープインパクト”の本命候補ロードカナロア唯一のダートグレード競走ウィナーであり、母系からはフレンチデピュティ、フジキセキとダートで手堅く外れのない血脈を代々受け継いでいます。母フレンチノワールは“東サラ”ブランドの第1期生というクラブゆかりの血統というのも嬉しい限りです。いよいよ深まるG1シリーズの秋、レッドの旗を掲げた破竹の進撃開始のキッカケになってくれそうです。