2021.11.01

ベストバウト

素晴らしいレースでした。近年最高級の「ベストバウト(名勝負)」だったと思います。直線坂上でグランアレグリアが満を侍して先頭に立つと、すかさずエフフォーリアが忍び寄り、ギアを上げたコントレイルが追撃態勢に入ると、ピーンと張りつめた緊張感が背筋を走ります。選ばれた強い馬たちが強い馬同士で死力を尽くす戦いの始まり、この一瞬に競馬の醍醐味が凝縮されています。この瞬間にいつも立ち会えるわけじゃありませんが、この瞬間を味わいたくて競馬を止められないのでしょう。

天皇賞(秋)の3歳馬による制覇は、エフフォーリアの祖父シンボリクリスエス以来19年ぶりだそうです。鞍上の横山武史騎手は、祖父の横山富雄さんとメジロタイヨウ、父の横山典弘さんとカンパニーに続く3代制覇ということです。これも素晴らしい記録ですね。さらに感動させられたのはエフフォーリアの担当調教助手である成田雄貴さんに贈られた「ベストターンドアウト賞」でした。ご存じのように、出走馬の中から“もっとも良く躾けられ”、かつ“もっとも良く手入れされた”馬と担当者に敬意を表するものです。海外ではビッグなレースに付き物とも言える栄誉ある賞ですが、これもG1レースの心弾む楽しみの一つです。そうしたあれこれも含めて、東京競馬場はコロナ禍を乗り越えるような素敵な秋の一日になりました。

エフフォーリアの素晴らしい走りで、その父エピファネイアの底知れないポテンシャルが改めて注目を浴びています。いきなり初年度産駒から牝馬三冠を総ナメにしたデアリングタクトを出し、2世代目のエフフォーリアは他を寄せ付けない勢いで時代の最先端を突っ走っています。3世代目のサークルオブライフは前日のG3アルテミスSを眼を瞠(みは)らせる素晴らしい推進力で測ったように差し切って桜戦線に名乗りを上げました。アルテミスSは今年で10回目と歴史の浅いレースですが、桜花賞にソダシが勝ち、リスグラシューとラッキーライラックが2着している出世レースですから、本番でも見せ場以上を期待して良さそうです。“ポスト・ディープインパクト”という面では、先行するロードカナロアやキズナの実績は傑出していますが、同期生など年齢の近いライバルとの比較では、アタマひとつ抜きん出たという気がしないでもありません。

“ポスト・ディープインパクト”のせめぎ合いは、ライバルのドゥラメンテが死してなお菊花賞でタイトルホルダーが圧勝し、モーリスは先週末のオーストラリアでヴィクトリアダービーを制覇するなどいずれも個性豊かな産駒を輩出しています。このライバルたちに共通するのは、サンデーサイレンスのクロス持ちの産駒に走る仔が偏っている点でしょうか?日本競馬界の偉大なレガシー(遺産)をフルに活用しているという面では頼もしくもあるのですが、エフフォーリアやタイトルホルダーなど後継馬というポジションからは、配合牝馬の選択肢が限られる不自由さも存在しています。そうした難題も抱えつつ、いま競馬がドンドン面白くなっていくような気分にウキウキさせられています。