2021.10.27

3歳競馬の劇的進化②

遥か彼方に聳え立つダービーを頂点と仰ぐクラシックなど、3歳時に繰り広げられるレースの数々を“競馬の華”と格別のステータスを認めているホースマンが多いのは世界共通でしょう。しかしダービーがすべてというわけではなく、その後も古馬対決など厳しい試練が待ち構えます。最初の関門・7月第1土曜のG1エクリプスSは古馬60.5㌔に対して3歳馬56㌔と4.5㌔のアローワンスを貰いますが、最終ハードルとなる10月第3土曜のG1チャンピオンSでは59.5対57.5の2㌔差にまで縮められます。3歳時を通じてサラブレッドとしての頂点を極めるには、持って生まれた能力の高さだけではなく、その成長力が問われています。ダービーを勝つと即・引退という馬も少なくありません。故障に泣く馬もいますが、ダービー馬の栄光に傷をつけず、その価値を貶(おとし)めないために敢えて身を引く選択肢もあるようです。

こうした進退の処し方に仕組みとして取り組んでいるのが、世界一サラブレッド価値のあり方に熱心なクールモアの人々かもしれません。専属トレーナーであるエイダン・オブライエン師が調教場を構えるバリードイルに、2歳馬がおおむね100頭前後、3歳馬もほぼ同数が入厩してシーズンインを迎えます。しかし4歳以上の古馬は極端に減少して総勢でも10頭内外というのが実際のところです。今年は日本人オーナーが共同所有する5歳馬のジャパンやブルームが絞り込まれたメンバーに入っていましたが、厳しい!というのが正直な実感です。これがG1ハンティング軍団=クールモアが進める世界制圧の戦略的ラインナップになっているようです。端的に言えば、すべては3歳時に集中して完成の大輪を咲かせることを目指しています。

バリードイルでは毎週、2歳馬の格付けを行っているそうです。2歳時に競走馬としての骨格を形成し終え、3歳時の飛躍的な成長を期待できる馬の品定めです。クールモア拠点牧場のあるアイルランド、アメリカ、オーストラリア、近隣のイギリス、フランス、ドイツなどの競馬先進国群に成長著しい日本などを加え、“ベスト・トゥ・ベスト”の配合から誕生した世界よりすぐりの良血馬ばかりをバリードイルに集めて、世界の頂きを目指して一流スタッフによる科学的なトレーニングを手間暇かけて丁寧に行い、定期的な厳しいチェックも欠かしません。

しかし例外もなくはありません。かつてオブライエン師自身が心から愛情と敬意を注ぎ続けたイェーツが8歳まで在厩したことがあります。3歳馬には出走資格のないG1アスコットゴールドC4連覇など記録にも記憶にも残る偉大な蹄跡を記した名馬です。これは例外中の例外で、もうこんな馬が現れることはないでしょうが、サラブレッドの価値は複雑で多様に渡り、簡単には決められるものではないようです。