2021.10.26

3歳競馬の劇的進化①

土曜東京のG2・富士Sは、3歳牝馬ソングラインが想像を上回る強い競馬で人気に応えました。近年は3歳馬と古馬との直接対決がスタートする夏競馬のスプリント路線を中心に、いきなりから若駒たちが溌剌(はつらつ)とした動きを披露する場面が目立つようになりました。古馬の壁に跳ね返されるケースが当たり前だった以前を思うと、その劇的なまでの進化ぶりに目を瞠(みは)らされる思いです。

直接的なキッカケは、ダービーの前日に開催される京都の葵Sが、4年前に重賞へと格上げされた番組編成の変化だったことで間違いないでしょう。それまで長い間、この時期の3歳のスプリンターは(ダート馬も同じですが)適鞍が極端に少なく、馬主さんや厩舎関係者のクラシックへの強い想いもあって、牡馬なら皐月賞、ダービーへ、牝馬は桜花賞からオークスへ向かうのが定番で、有能なスプリンターには過酷すぎる環境でした。事情は競馬発祥の地イギリスでも似たようなものでした。一流クラスの3歳スプリンターは7月の声を聞くと開催されるG1・ジュライCまで活躍の舞台がありません。止むを得ず適性があるとは言えない2000ギニー、ダービーに挑戦し、あたら才能を無駄にすり減らしていました。

ところが、15年にロイヤルアスコット開催で3歳スプリンターのためのG1・コモンウェルスC(芝1200m)が創設されると状況が一変します。有能なスプリンターがこぞって参集して切磋琢磨することで、更にポテンシャルを高めたからです。第1回の勝ち馬ムハーラーは、コモンウェルスCから、古馬挑戦の第1弾G1・ジュライC、フランス・ドーヴィルのモーリスドゲスト賞、シーズン末のブリティッシュチャンピオンズスプリントSと無敗でG1を4連勝して王者に君臨しました。この成功でヨーロッパ短距離界が一躍活性化され、レベルも大幅に進化しました。

葵Sでも同じような現象が起きました。第1回の2着馬ラブカンプーは、G3・アイビスサマーダッシュ、G2・セントウルSと古馬を向こうに回して2着を続け、頂上戦のG1・スプリンターズSでも王者ファインニードルとクビ差の大接戦を演じました。この“新たな伝統”は本場イギリス同様にシッカリ受け継がれており、今年の葵S勝ち馬レイハリアはキーンランドC、2着ヨカヨカは北九州記念、3着オールアットワンスがアイビスサマーダッシュと、サマースプリントの舞台は3歳馬の独壇場になっています。こうしたトレンドはスプリント路線に限らず、NHKマイルCの覇者シュネルマイスターがG2・毎日王冠で直線ゴボウ抜きの壮挙を演じて、勇躍マイルCSに挑戦します。「クラシックだけが競馬と言わせない!」そんな幅の広がりが、私たちの大好きな競馬を一層豊かなものにしてくれるようです。