2021.10.23

今年最後のクラシック

いま朝の9時を過ぎたところ、菊花賞の前売りオッズは昨晩からレッドジェネシスの1番人気は動きません。3倍台から4倍台を上下していたものが、世評とは逆に驚くべし!1倍台へ跳ね上がるシーンも出現しました。最終的な売上げ票数から見れば、まだごくごく一部でしょうから、ちょっとした票の動きで倍率が大きくアップダウンします。発売締切時点では落ち着くべきところへ落ち着くのでしょうが、“過剰”とも思えるジェネシス人気は敗けて恥じない神戸新聞杯の堂々たる競馬っぷりにあるのでしょうか?

折からの不良馬場もあって、最初の1000mが63秒8とスローペースで流れる中、ジェネシスと藤岡康太騎手はイン寄りの経済コースを丁寧に選んで馬群に潜み、じっくりと脚を溜めながら直線勝負に備えます。直線に向かうと各馬とも当然ながら馬場の良い外を目指して殺到しますが、ジェネシスは1頭だけ内ラチ沿いに進路をとり、コーナーワークでグンと位置を上げると、馬群が渋滞気味の外めとは正反対にガラリと開いたインコースに直進し、馬場に脚をからめ取られて“いつ止まるか”と、息を止めて見守るスタンドのハラハラを吹き飛ばすようにゴールへ真一文字に直進します。その姿を視野の片隅に投影させて、大胆にも進路を急変更してカジを大きく切った馬がいました。ステラヴェローチェと吉田隼人騎手です。

直線に向いたときは、外寄りのコースを進むダービー馬シャフリヤールや直後のキングストンボーイを目標に末脚のスイッチを入れるタイミングを測っていました。しかし一瞬だったのでしょうが、視界の片隅にガラ空きのインを驀進するジェネシスを捉えるや、瞬時にダービー馬からダービー11着馬へと目標を切り換えます。鞍上の判断も光りますが、ここから直線の坂を横切るようにジェネシスに馬体を寄せていくヴェローチェの走りも圧巻でした。皐月賞、ダービーの二冠がともに3着と実力は確か、その上“道悪は鬼”ともっぱらの評判に違わぬ脚色で飛ぶようにグングンと迫って来ます。

しかし外から内へと強烈に切れ込んで来ただけに、方向をゴールの向きに真っ直ぐ立て直すのは至難の技でした。「時計のかかる馬場は良いが、不良にまで悪化すると思われているほど上手とは言えない」と友道師が分析するように、ジェネシスと藤岡騎手は少しでも馬場の良い外へ持ち出そうと左鞭を振るいます。思い切り良く内に切れ込むヴェローチェと少しでも外へ出したいジェネシスが馬体を接して競り合います。しかし追う方に勢いが傾くのは物理上の摂理、ヴェローチェの内向きの圧力が勝ります。ジェネシスは目指すコースが走れずゴールでは半馬身だけ遅れをとりました。しかし同タイムだったのですから、これはもう“勝負のアヤ”と思うしかないのでしょうね。

迎えた最後のクラシックは、枠順もこれ以上はない“幸枠”に恵まれました。気心の知れた川田将雅騎手に乗り替わるのも追い風でしょう。問題は、あの道悪馬場を全力で走り抜いた反動だけだと思います。幸い中間も順調と伝えられ、悔いのない一番になるよう祈るばかりです。